表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/126

道祖神前の告白の可能性


そこに悪意はない可能性は高いが、罠であることには変わりはない。


近頃、人気のスポットがある。

そこで告白すると成功率が上がるとのことだ。


絶対確実とは言わないが、多くの恋人がそこで生まれた。


「ああ、有名ですね」


アルバイトのUさんは無感動だった。


「もう二度と、絶っ対、行きたくないです」


ただし強烈に拒否された。


「……あそこですか」


新入りのZさんも似たようなものだった。


「人のことをバカにしてます」


告白成功という、どこか甘い雰囲気とはまったく逆の評価だ。


妙求市南、須園すえ通りにある小道。

その奥に、小さな道祖神がある。


この道祖神にお参りをしてから告白すると成功しやすいという、人によってはありがたい場所だ。

映像を見る限り、ただの石にしか見えなかった。


調査として向かうことにした。

Uさんからは止められ、Xさんからは是非行くべきだと薦められた。


オフィス街であり、日中は歩行者もまばらだ。

代わりに車がよく走り、機能的な忙しさを示している。


その狭間にひっそりと、その石はある。

文字らしきものが掘られているが、まるで読めない。


ここで行うべきことは、あまり決まっていないらしい。

心を込めて祈ることだけが条件だ。


5円玉を置いた後に拝んだ。

不意に、こめかみ辺りが痺れた。


市職員の、学生時代の姿が浮かんだ。

今まさに体験している最中の様にありありと。


それは二年生に上がり、部活の後輩ができた時期だった。


用具の片付けをしていた。

少しばかり面倒な道具入れの手順があるため、一人残っていた後輩は先に帰らせた。


すでに日が沈み、暗かった。

他の部活の生徒もすでに帰っていた。


面倒な片付けは面倒だ。

しかし、こうした作業もこれで最後。次からは後輩の仕事となる。


鼻歌を歌った。

お気に入りの歌を、ランダムに気持ちよく。


段々と調子に乗り、やがては大声で歌った。

あまり歌は得意な方ではない、どちらかといえば音痴だ。

だが、周囲に人がいない環境ということもあり、気分が良く歌い上げた。


子供向けアニメの愛と勇気を歌い上げ、口元には架空のマイクを構え、そのままくるりとターンし。


後輩と目があった。


世界で一番気まずい沈黙が流れた。


やっぱり手伝おうと――

後輩は、そうした言葉を言おうとしていた。


微妙極まりない視線がざっくりと突き刺さっていた。

まるで「あ、意外とそういうところあるんですね?」と言っているかのようで――


ウヒぃ、という声が喉から自然と出た。

その瞬間に立ち戻ったような、酷い恥ずかしさと身の置き所のなさが声として出た。


なんだこれは、と思う。

まさか、と思いスマホで己の姿を映した。


見事に真っ赤な顔があった。

こんな表情は、市職員自身からしても見たことがなかった。

きっとあのときも、こんな表情をしていた。


なるほど、と声が出た。


つまるところ、告白成功率を上げているのは、これだ。

普段とは異なる、だが、間違いなく本人の「とても恥ずかしがっている表情」で愛を伝えれば、成功率は上がる。

まして、その告白を受け取る側も「恥ずかしがっている最中」だ。とても冷静な判断はできない。


強制的に恥を想起させることで、そのような効果を生み出す仕組みだ。


なるほど納得だ。

だが、罠でもある。

二度と来たくはない。


半ば憤慨し、気を緩めれば浮かび上がろうとする過去を振り払いながら大通りへと戻ると、当たり前のように新入りのZさんとアルバイトのUさんがいた。


二人とも、撮影をしていた。

市職員の顔はまだ赤かった。

Zさんは親指を立て、Uさんは小さく拍手をした。


市職員は二人を強引に道祖神前へと引きずった。



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ