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組み立て式彼氏の可能性

復讐を止めることは、難しい可能性が高い。


先日、市が主催した豆まきは無事に終わった。

危惧していた死者や行方不明者は出ず、多少の怪我人が出ただけで済んだ。


あれだけの規模の戦いにしては小規模な被害だ。


持ち込まれた豆まき用の改造銃はすべて押収した。

見えないブロックを改造して造られた近接武器は見つけ次第破壊した。

明らかに鬼ではなく別の人間に向けて豆をぶつけようとする動きもあったが鎮圧した。


多発的に起こり、あまりに人手が不足していた。

本来であれば対処は不可能だった。


それを覆した人物が目の前にいた。


「やっぱり、その、言わなきゃ駄目ですか? ここだけの秘密ってことで済ませません?」


アルバイトであるUさんは、あまり運動が得意ではない。

普段は後方にて連絡役に徹している。


だが、豆まきでの問題発生の際、縦横無尽の活躍をした。


消失物の関与が疑われる。


「あの、その……?」


黙って見つめること十二分、がっくりとUさんはうなだれた。


「はい、そうです……たしかに、やりました……」


Uさんは、重いものを机に置いた。


「でも、悪くはないんですよ?」


市職員からは認識できない。

だがそれは、腹だという。


「マネキンの一部分です」


切り取られたマネキンの腹だった。


数日前、一方的にそれは贈られたのだそうだ。


「送り主不明の怪しいものだったんですけど、なぜか受け取ってました」


マネキンと共に、「全部集めて、あなただけの理想の彼氏を作ろう」という文章と、いくつかの住所を記した紙が添えられていた。


「笑っちゃいますよね」


無視しようとした。


「けど、その……」


触れたその「腹」は、ほのかに暖かかった。

また、見覚えもあった。


「●●様、って憶えてますか?」


Uさんが熱狂しているマンガのキャラクターだ。

二週間ほど前、それに関する事件もあった。

マンガ内にてその●●に恋人ができたことでUさんは狂乱した。


「その相棒ポジに、△△って人がいるんです」


正反対の性格であり、一緒にいる姿がよく描かれていた。

互いに認めていないが、親友と言っていい関係性だった。


「その腹でした」


△△は活動的かつ俊敏に動き、ユニフォーム下の腹を見せつける機会が多かった。


「どちらかといえば△△は好きな方じゃありません、けど、あんなに何度も見せられたら嫌でも憶えます、ええ」


Uさんはとても真面目な顔つきだ。


「……全部を集めたら理想の彼氏ができる。これ、全部のパーツを集めたら△△になる、って意味だと思うんです」


毎月送られてくるのを集めるのかと訊いた。


「いいえ」


その顔には濃い緊張があった。


「一緒に添えられていた住所があります、そこに、他のパーツはすでに送られています」


市職員からは見えない腹に触れながら、Uさんは続けた。


「他の連中から、それらパーツをぶんどって、自分だけの△△を組み立てろ。これは、そういうゲームなんです」


バトルロワイヤルだった。


「実際、こっちが迷っている内に襲撃されました」


先程も言ったが、Uさんは運動が得意な方ではない。


「けど、こうして触れて念じれば、パーツの形状を好きに変えられるんです」


市職員からは見えなかったが、剣呑さは感じ取れた。


「この状態のものを手にすれば、身体能力も上がります」


それで撃退することができた。

Uさんの気配は明確に変わっていた。


「私、かなり出遅れたんですよ」


事態を把握し、動き出すのが遅かった。


「紙に記された住所を当たってみたんですが、誰ひとりとして住んでいませんでした」


パーツが送られた時期は、おそらく同時だ。

まだ序盤戦の段階であり、脱落者が出たとは考え難い。


参加者の誰もが知られている住居を捨てたのは、全員すでに決意を固めたことを意味していた。


「負けるわけにはいきません」


最近のUさんが市職員用の仮眠室を使っている理由をようやく理解した。


「昨日は、豆まきの隙をついて何人かに襲われました」


男女を問わず、やけに動きのいい人間がいた。


「だいたいの人が鬼の仮面を被ってました」


可能な限り身元をわからないようにするためだった。


「私はもう結構知られていますから、今さらです」


素顔を晒したまま活動した。


その結果として集中的に狙われたが、誰よりも戦いの経験値を得た。


「負けません」


その様子を見ながら、市職員は考える。

仮にUさんが勝ち上がったとして、得る相手は△△だ。


本来の理想は●●のはずだが、Uさんは自らの意思で送り返した。

理想を得る権利を自ら手放した。

だからこそ、第二候補として△△が送られたのだろう。


果たして、それで満足なのだろうか?


「ええ、もちろん」


当たり前のように頷いた。


「だって、それで●●様から△△を奪い取ることができるんですよ?」


意味を掴みかねた。


「私を振って恋人なんて作ったんですから、私が●●様の相棒を奪ったっていいですよね?」


つまり、それは……


「私が受けた苦しみの万分の一でも、●●様には味わってもらう必要があります、そのためにも、負けるわけにはいきません」


どちらもマンガのキャラクターであり、マンガ内の描写に影響を与えない可能性が高い。


「関係ありません。私が知った●●様と、この△△はきっと同じ世界の住人です。そこだけが重要です。強引にでもこっちの世界に引きずり込めば、きっと消えます。奪い取れるんですよ」


明確な復讐目的だった。


「●●様は大切ですよ、今も愛してます、けど、苦しむべきです」


私と同じくらい。

言葉にはしなかったが、そう聞こえた気がした。


挿絵(By みてみん)


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