無名駄菓子店の可能性
あまり期待しないほうが良い店である可能性は高い。
阿左美通りの外れに、めったに開くことのない店がある。
昔ながらの駄菓子店だが、古本の類も取り扱っている。
古本の売買には古物商許可が必要となるが、ここの店主がそれを持っているかどうか怪しい。
やる気のない、常に眠そうな人物だ。
大抵の場合、店は開いていない。
下りたシャッターに張り紙だけがある。
【正月休み、継続中】
しばらくの間は、そう表示されていた。
市職員は10日ほど、そう貼られ続けているのを確認した。
【日曜日は当然休み】
最近、ようやく変わった。
開く予兆かどうかは不明だ。
店構えは非常に古く、今にも崩れそうなものだった。
おそらくではあるが、今の建築基準法を満たしていない。
【新しい朝、だから何?】
市職員以外に、この張り紙を確認する人はいない。
奥まった場所であり、人通りも少ないためだ。
【CARPE DIEM.】
これを直訳すれば「一日を摘め」だ。
花が咲くように、ただ今この瞬間を楽しめ、といった意味でもある。
店を休む理由として妥当かどうかはわからない。
【螟「縺九i縺吶l縺ー縲√♀蜑阪′隱ー縺ァ繧る未菫ゅ↑縺】
長いが意味はわからない。
写しはしたが、正しいかどうかも不明だ。
考えてみればこの店には名前がない。
古い一軒家でしかなく、看板の類もない。
店であるかどうかも怪しい。
果たして対処課職員としてどうするべきかを悩む内、店が開いているのを見つけた。
市職員が知る限り、今年初だ。
立て付けの悪い扉を開くと、店内は意外と整頓されていた。
駄菓子の類がずらりと並び、右方向の壁には書籍が並ぶ。
店主は一瞥だけして、ふたたび帳面へと顔を向けた。
ここで「古物商許可はありますか?」と聞けば、きっと即座に店を閉める。
そうして二度と店を開くことはない、そう確信させる無愛想と偏屈があった。
黙って本棚のコーナーへ向かった。
以前にはなかった、「購入禁止」の張り紙がされていた。
隣には「黙って読め」「時間制限一時間」とも記されている。
前回、購入交渉をかなり粘った。
市職員は、古びた雑誌を手に取った。
見覚えのあるその表紙は、すっかり日に焼けていた。
子供の頃、一番最初に買ってもらった子供向けの月刊誌だった。
ページをめくれば、古い記憶が刺激された。
まるで前世の出来事を思い出すような感覚だ。
内容としては、稚拙で子供向けだ。
けれど、そんなことは関係なかった。
今も連載を続けるものも載っていた。
絵柄の変遷が感じられた。
夢中になって繰り返し読んだ話があった、記憶とはまったく違う内容だった。
憶えのないマンガもあった、今読んでもすぐ忘れてしまうようなものだったが、一コマだけ憶えていた。
なんでもないのに、妙に記憶に焼き付いた。
一時間はあっというまに過ぎ去った。
店主が腕時計を示し、時間切れを教えた。
タダで読むのは申し訳ないと、駄菓子を買い込んだ。
言葉というよりも唸り声を上げ、店主は釣りを手渡した。
すべての動作が、とっとと出ていけと告げていた。
帰路を進みながら、先程読んだ月刊誌を思い返す。
つい先程読んだばかりなのに、もう夢のように消えていく。
阿左美通りの外れのその店は、大抵は休んでいる。
おそらく、一人で訪れる必要がある。
二人以上で行き、店が開いていたことがない。
だが、訪れれば、懐かしいものと出会う。




