旅行者の認識の可能性
旅行者は、注意しなければならない可能性がある。
著名な学者であるVさんが妙求市を訪れたのは、大学同士の交流のためであり、熱心に誘われたからだった。
「会いたい人もいましたから」
親日家でもあるVさんだが、妙求市に来たのは初めてだそうだ。
「いい場所です」
物静かで、感情が表に出ない人柄であるためか、日本はそれなりに居心地がいいという。
「ただ、連絡? 取りにくい」
三回に一度くらいの割合でエラーが出た。
文字化けしていることも多かった。
明求市内の相手であれば問題がなかったため、不思議に思ったそうだ。
「引き合わせてくれた、あなた、ありがとうございます」
Vさんが会いたい人物とは、Wさんだった。
現在、青信号を探して街中を歩き回る人物だ。
市職員が電波感知器を片手に見つけ、連絡をつけた。
専門的な会話を、ずいぶん長くしていた。
今回のインタビューに応じてくれたのは、そのお礼のようなものだ。
「妙求市は、とても過ごしやすい。みんな、いい人。私は好きです、食べるものが美味しい」
多少の齟齬はあったものの、妙求市をとても評価してくれた。
「けれど……」
気になることもあるのだという。
「警官の数、とても多い」
たまたま目に付くだけかと思っていたが、一区画ごとに目に付くとなると気の所為ではなかった。
「ポリテープも」
事件現場の立入禁止を示すポリステープが、妙な所に貼られていた。
「どうして、ポストボックスに?」
郵便ポストが、赤と黒の注意を示すものでぐるぐる巻きにされていた。
倒れたマネキンの周囲や壁に描かれた扉の前など、明らかに不要な場所にもあった。
「事件ない、ですよ?」
ひょっとして芸術作品なのかと質問された。
違うと答えた。
「あと……」
食べ歩き以外、楽しみとがないのが残念だとVさんは言った。
この妙求市は、観光できる場所がほとんどない。
一応はアーケード街はあるが、それほど長々と楽しむものでもない。
住みやすくはあるが、旅行目的で訪れるには面白味がなかった。
「誘われます」
しかし遭う人すべてではないが、高確率で薦められる場所があった。
「陽爻神社です」
たしかに階段を長く登らなければならないが、行くだけの価値はあると説かれた。
特にF市議が熱心だった。
「あとトイレ」
間境の有料トイレを薦めるのは、比較的若い層が多かった。
「なぜ……?」
Vさんには、意味が理解できなかった。
不気味に思うが、それほどまでに言うのであれば行くべきかと考えているという。
市職員は、どちらも行く必要はまったくないと伝えた。
該当する広報バックナンバーを渡し、注意を促した。
後に課長から叱責された。
余計なことはしないようにと。
ただ、Vさんからすれば、妙求市とはカルト宗教と麻薬が蔓延る土地柄であり、危うくそれに巻き込まれる所だったと認識したようだ。
市職員へのメールの文面に、そのような感謝が丁寧な文体で筆記されていた。
現実的に考えれば、妥当だ。
飲まないよう注意書きを添え、見えないブロック片を送付した。




