道端の置物の可能性
それは、逆効果である可能性が高い。
Tさんがよく歩くのは健康のためではなく金がないためだ。
大抵の場合は寒そうに町を歩く。
「まあ、自業自得なんだけどよ」
その日、Tさんは少しばかり風邪を引いた。
「家に残ってたマスク引っ張り出して付けたけど、それでも咳き込んでたよ」
だからこそ、道端で遊ぶ二人の子供を見かけたとき、進むルートを変えた。
「病院からの帰りだった、診察結果は普通に風邪で、そこまで酷いもんじゃなかった、別に感染ったりはしねえだろうけどよ。俺のせいでガキに風邪を引かれたら気分がよくねえ」
初めて進むそこは住宅地の間だった。
「路地を一つ違っただけで、割と見慣れないもんになるのな」
途中に、取り壊された家があった。
「まあ、こんなご時世だ、そういうこともあるか、ってくらいだった」
半ば壊れた家の前、敷地入口付近に二体の置物があった。
「たぬきな、あの本物とは似ても似つかないやつ」
Tさんの膝程度の大きさであり、二体は兄弟のようにサイズが異なった。
「家壊れたのに、まだ守ってんのか、ごくろうごくろう……そんなことを言った気がする」
せいぜい、がんばってくれ。
そんな言葉も付け加えた。
「……それが悪かったのかもしんない」
咳き込み歩く途中、左足に違和感を覚えた。
「気づくと、さっきのたぬきの置物の片方、俺の足に引っ付いてやがった」
つぶらな目で見上げていた。
Tさんの足にしがみついて離れなかった。
「ざっけんな、って話だよな。こっちは体調崩してんだ、割と限界だ。なにが悲しくてこんなのに関わんなきゃいけねえんだよ」
たぬきの要求は明確だった。
「これさ、持って帰って欲しい、ってことだよな」
陶器製のそれは、それなりの重さがあった。
「いっそこの場で壊してやろうか、って思ったんだけどよ……」
思い返したのは、去年の出来事だった。
ペットロボットに、別のものが入った。
「ねえんだよ、ありえねえんだよ、でも、ひょっとしたら、って思っちまった」
ロボットがそうであるのなら、陶器製のこれにも、同じことが言えるのではないか。
この狸に、知っているものが入っている可能性は、どれほどあるのか。
「死ぬほど迷った挙げ句、それを抱えた」
後悔しかなかった。
「で、ちょっと遠くを見ると、残されたたぬきの置物もあるんだ、当たり前だけどな」
見かけたたぬきの置物は二匹だ。
壊れた家の前に、一匹だけ佇んでいた。
その様子を見ながらTさんは、二匹は飼えねえ、と伝えた。
「キャパ的にも無理だったんだよ」
置物はそれなりの大きさがある、マンション住みであるため外に放置するわけにもいかない。
家の中のインテリアとするには、少しばかり大きすぎた。
Tさんは一匹だけを抱えて、歩き出した。
しばらく進んでから、勢いよく振り返った。
「……手ぇ振ってやがった」
置物が、崩壊した家の前で小さく手を振る姿のまま停止していた。
なぜか、ぎくりとしているように見えた。
「こっちはいいから、そっちはどうか幸せに、そう言ってるみたいな動作をしてやがった。クソすぎるだろ、それは」
あまりにムカついたTさんは、二匹とも連れて帰ることにした。
「そこからは、別に変なことは起きてねえ、たぬきの置物が動くこともなくなった」
風邪はすぐ治り、少しばかり運が向上したような気がしたが、それも気のせいと言われれば納得できる程度だ。
「問題は、そこじゃねえんだ」
以後、似たようなことが何度かあった。
そのたびにTさんの家に置物が増えた。
現在、5匹いる。
「これ、街中に掲載するよな? 伝わるかどうかわかんねえけどよ、宣言しとくわ。もうこれ以上は無理だからな? 絶対に駄目だ、無理だ、別んところ行け、俺なんかよりいいところが絶対にあるはずだ、分かったか? なあ!」
掲載することは構わないが、逆効果となる確率が高いことを伝えた。
望まない宣伝効果を生んでいる。
意味がわからないという困惑の表情をしていた。
Tさんの住居は現在、両鐵にある。




