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職員室に降る雨の可能性


この解決は、根本的なものではない可能性がある。


大学の体育講師であるMさんは、顔色が悪かった。


「体調が悪く、風邪気味だ。インフルエンザ等ではないことは確認した」


マスクをしていたが、咳は出ていなかった


「主に体育を教えているが、これじゃできない。俺の授業は、病気を移すためのものじゃない」


こうなったのには、理由があるという。


「大学にも、職員室がある」


この辺りは大学によっても異なる。

Mさんが務めている大学では教授には個室が与えられ、非常勤や数コマだけ教えるために通う先生には大部屋が用意されていた。


前者を研究室と呼び、後者を職員室と呼ぶが、高校までのいわゆる職員室とは様子が異なる。


「共同で使える作業部屋だ。理系の学科も使うためか、夜間でも使用できた。一人で残業をするようなときもあった」


あまり器用な方ではないMさんは、準備に長く時間が必要だった。


「大学における体育は、運動不足解消はもちろん、生涯に渡りスポーツと関わることの橋渡しを目的とする。そのため、動機づけがもっとも重要だ。俺はもともと体を動かすことが好きだった。嫌いな奴の気持ちを理解できない。モチベーションについての理解がどうしても弱く、苦労している」


上手く行っている手応えが無かった。


「その日も作業は長くかかり、気づけば俺一人だった。スマホで時間を確認し、終電に乗れるかどうかを確かめた際、疑問に思った」


スマホ画面に、水滴がついていた。


「外であればわかるが、室内だ。俺はペットボトル等を持ち込んではいなかった」


唾が飛んだとするには水滴は大きかった。


「天井を見上げても、水漏れはなかった」


どこか別の場所で水が付き、今ようやく気付いた。そう納得しようとしたが、できなかった。


「もう一滴、水滴が増えたんだ」


数秒の間を置いて、更に増えた。

明らかに水が降っていた。


「俺は、ノートパソコンで作業をしていた。スマホであればともかく、こちらはそれほど防水性能がない。慌てて席を移動したよ」


職員室とはいっても共同で使える作業部屋であり、決まった席はない。

他に人はいなかった。


「急いでそうやって歩いてる最中、更に増えた」


スマホ画面にそのような画像が出ていたわけではなかった。

スマホの端から水は垂れて落ちた。


「その垂れ落ちた水が、机に落ちたのを見た」


付着跡は現れなかった。

机はプラスチック製であり、撥水加工がされていた。木製の机が吸い込んだわけではなかった。


「あり得ない話だが、スマホだけに、水は落ちていた」


幸いなことに、ノートパソコンが濡れた様子はなかった。


「いや、違うな。俺にもその水は感知できた」


雨を体感したわけではなかった。

しかし、やけに体が冷えた。


「服はわずかに濡れていた、トイレの鏡で確かめれば、セットした髪が乱れていた」


また唇の様子も青かった。


「スマホにつく水滴は増えた」


職員室に戻ることはできなかった。

見えぬ雨がそこでは降り続いていた。


「豪雨とかそういうものじゃない」


ほんの僅かな水、霧雨にも満たないものだ。

人のいない職員室で、その水滴は降り続けた。


「だが、長時間続けば体調だって崩す。情けない話だが、俺はそうだった」


購買で購入したタオルで拭いても上手くゆかず、中途半端に濡れた服は乾かなかった。

そのまま冬空の下を歩く必要があった。


「翌日以降も、俺が一人で作業をしていると、雨は降った」


作業場所として職員室にこだわる必要はなかったが、譲るつもりはなかった。


「俺が使うことを許可された場所だ、その権利を奪われる理由はない」


だが真冬に、雨ざらしの下での作業だ。

どうしようもなく体調を悪化させ、ついには授業を休んだ。


「こんなことを相談しても仕方ない、だが、なにか方法はないか」


レインコートの使用を薦めた。


傘も考えたが、こちらの方が確実だ。

所有物であるノートパソコンに濡れた様子はないが、身につけた衣服は、その見えない水の影響を受けている。

ならば、その衣服に撥水加工処理があれば対処できる。


「なるほど……」


これが自然的現象か、誰かの悪意によるものかは不明だ。

他に被害報告がないため、Mさんだけを狙ったものだと思える。


「そうか」


どこか心当たりのある様子だった。

Mさんは、今日も意地の張り合いを続ける。



挿絵(By みてみん)

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