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瑞阿津・甘味処

瑞阿津ずいあつにある甘味、鉢間処はちまどころは知る人ぞ知る有名店だ。


有名店と断じることができないのは、ここで主に提供されるものが原因だ。

冬季限定のかき氷である。


ここ数日は寒さが和らいだとはいえ、1月にそんなものを食べる意味がわからなかったが、新入りとアルバイトに熱心に推された。


鉢間処は、小さな二階建ての和風建築であり、店員も和装姿だ。

店内は、非常に寒い。

席に着いたがコートは脱げなかった。

出入り口は開いたままであり、窓も開けっぱなしであり、積極的に外気を引き込んでいた。


クーラーは存在しない。

ストーブなど、他の熱源も一切ない。


固い決意を以て帰ろうとする市職員の肩を、新入りに押さえられた。

評価を決めるのは早いとアルバイトに言われた。


熱いお汁粉を注文するより前に、かき氷を注文された。

これは迂遠な殺人であるかを訊いた。

否定された。


サービスで提供された暖かいほうじ茶を縮こまってすすり周囲を見れば、存外、混み合っていた。

満席ではないが、知る人ぞ知るという評価の通りだ。


この店に、これほどまで客が来る理由はなにか?

おそらく、値段や味などといった常識的なものではない。


アイス・バケツ・チャレンジというものがある。

寄付を目的として、ネット上で氷の入った水をかぶるパフォーマンスを行い、次に行う二人指名する。

指名された二人は同じくアイスバケツか、100ドルを寄付するか選択し、さらに次の二人を選ぶ。


死亡事故が起きたため下火となったが、寄付活動そのものは上手く行ったようだ。


この店は、それに類似したチャレンジのための場所に違いない。

確信を以て二人にそう言った。

否定された。


やがて盆に載せられたかき氷が3つやってきた。

縁日などで売られている小さなものではなく、それなりの大きさだった。


氷は非常に細かく、雪のようにさらさらしている。

上にかかっているソースは黄色く、この店オリジナルだそうだ。


嗅げば柑橘系の匂いがした。

匂いだけで十分だと思えた。


新入りが毒見とばかりに、こちらのかき氷をひと掬い食べた。

アルバイトも同様に、ニコニコしながら食べた。


二人のそれは、また別の種類のかき氷のようだった。

目の前に提供されたこれは、店一番の人気だという。


コートの前を合わせて寒さを防ぎ、天井の様子を眺め続けた。

現実逃避だ。二人に早くと急かされた。


観念して、細長い銀製のスプーンを手にかき氷を食した。


冷たい。

間違いなく、冷たい。

口内はひえひえだ、甘くて美味い気もしたが、寒さの方がより勝る。やはり拷問か。


だが、飲み込んだとたん、評価が変わった。


欲していたのは、熱いお汁粉やおでんやラーメンだ。

体を温めるスープがあれば何よりも助かった。


それと同じ熱さが、喉を通った。


口にあったときはたしかに冷たかったはずなのに、飲み込んでから後は急激に温度を上げ、体を温めた。

度数の高いお酒のように、胃がぽっかりと暖かくなる。


目を白黒させている様子に、新入りとアルバイトは訳知り顔に頷いた。


何かの間違いかともう一度食したが、同じだった。

飲み込んだ後は熱くなる。


舌ではなく喉の奥から、フルーツの味と香りが溢れた。

熱は凍えた口内を溶かし、先程まで感じ取れなかった鮮やかさに満ちた。


食べるほどに、熱は増した。

体内の温度は上がり続けた。

食べてるのはかき氷なのに。


アルコールが混じっている様子もなかった。

あまり酒に強い方ではない、酔いの予兆は微塵もない。


周囲を見れば、大半の人が薄手だった。

なるほど、この暑さでは無理もないと、コートを脱いだ。


外気の寒さを勘違いした異変を連想したが、見れば汗をかいていた。

少なくともこの体は、この暑さを認識した。


味そのものも美味かったが、それ以上に寒さから逃れるために食べ続けた。

肩付近に感じていた寒さですらも消えせた。


食べ終わったのは、三人ほぼ同時だった。

まるで巨大な灼熱ラーメンを完食した直後のように手で自身を扇いだ。


「良かったでしょう?」


頷いた。


何か裏があるのかもしれない。

デメリットが存在している可能性もある。


だが、薄手のまま三人で帰った冬の道のりの楽しさは嘘ではなかった。



挿絵(By みてみん)

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