店内放送の可能性
その店内放送は、無価値である可能性がある。
高校生であるRさんが処理課に相談に来たのは、Rさん自身が納得できなかったためだ。
「瑞阿津に、でかい本屋があるじゃないですか、三階建てのやつ」
さまざまな要因により書店の数が減る昨今、それでも残る陣薛という大型店舗だ。
立地がいいためなのか、熱心に通う客が多い。
「俺自身は本とか読まないんですけど、友達五人くらいと一緒に行って、俺も付き合ったんです」
マンガはビニールの封がされており、立ち読みができないことが不満だった。
「なんかビニール触ってニヤニヤしてる人がいて気持ち悪かったんですが、いえ、ともかく、俺としてはさっさと買い終わらないかなぁって、そればっかり思ってました」
参考書を買うものと新刊を買うものとに別れ、Rさんは後者について行った。
「校内放送? 違うか、店内放送が流れたんです」
音が籠もり、よく聞こえなかった。
「俺の気の所為かもしれないんですけど、日本語って雰囲気じゃなかったです」
なんかヘンだよな、と聞こうとしたRさんは、横にいた友達が何度も大きく頷いているのを見た。
「え、どうしたん、って聞いたんですけど、なにが? みたいな顔されました」
なにも不審なことは起きていないという態度だった。
「店内放送は続いて、みんな足を止めて聞いてました」
変わらず内容は聞き取れなかった。
「ニュアンス、って言うんですか? よくわかんないんですけど、丁寧に命令されている感じがしました」
Rさんは冗談にして誤魔化そうと、友達に対し「コレ、わけわかんないよな」と訊いた。
「そう言った瞬間の、友達の顔が、その……」
Rさんが実はエイリアンだったとでも言うような、怖気を伴った表情と動作をした。
距離を取り、Rさんの接近を断固として拒否した。
「何度も、俺の顔と店内放送を見比べるんです」
そうして小さく「おまえ、これ聞こえてないんだな」と言った。
「それからすぐ、ハブられました」
他の人からも距離を取られた。
家に行く予定だったが、はっきりとついてくるなと威嚇された。
Rさんは、仲間ではないと見なされた。
翌日も、それは変わらなかった。
「全員が全員じゃありません、Oとか先生とか、関係ないって態度を取ってくれる人もいます」
それでも、納得できないのだという。
「これが学校で起きたんなら、まだわかるんですよ。でも、本屋ですよ? 関係ないじゃないですか。俺はなんにもやってない。万引きとか、そういうのも憶えがないです」
Rさんからすればひたすらに理不尽だった。
「理由を知りたいんです」
その後、いくつかの聞き取りを行った後で、市職員は書店へと赴いた。
直接聞かなければわからないと判断した。
陣薛と記された横には、頭部を模したマークがあり、店内は広く清潔であり、非常に込み合っていた。
本の品揃えに偏りはなく、様々な人のニーズに対応していた。
写真集を眺め半時間ほど経過した後、校内放送が聞こえた。
「昨日の違反者は、Rです」
奇妙に聞き取りにくい音声は繰り返した。
「皆様、憶えておきましょう。Rは違反者です。Rは違反者です」
先週の違反者としてBやDやYの名を続けた。
この音声が聞こえているものは腕組するようアナウンスは告げた。
見える範囲の誰もがそれを行い、同調しなかった市職員を全員が見た。
書店の責任者に理由を問い質した。
すでに店内放送は切っているのだと、疲れた表情で店長は言った。
放送機器そのものを取り外すよう提案したが、首を振られた。
鎮痛な動作だが、底の喜びが隠しきれていない。
陣薛は書店の数が減る今でも、熱心に通う常連客が多い。




