陽爻神社について
陽爻神社は妙求市北東に位置する小高い山にある。
祀る対象は蜘蛛だとされる。
これは通常、まつろわぬ民を指す。
古来より、迫害されたものたちを土蜘蛛と呼びならわした。
ただし、京都にあるそれらと陽爻神社は異なる。
アクセスが悪く、二百を越える階段を登らなければたどり着けない。
鳥居の他には拝殿と本殿があるばかりだが、つい先程建て替えたかのように真新しい。
通常の神社にはあるはずの狛犬や手水舎などは見当たらない。
宮司などの人影も、賽銭箱ですらもない。
まるで、神社というものをよく知らない人間が作り出した偽物のようだ。
『本物らしくない』、それが他の神社との違いだ。
古びておらず真新しく、どこか胡散臭ささえある。
通常の神社が古く落ち着いた和風建築だとすれば、ここは模倣したモデルハウスのようだった。
この神社には噂がある。
曰く、陽爻神社は人を新たにする。
知らぬ人がここから降りて来る。
そのような生まれ変わり、あるいは新しくするという伝承のためか、多くの御奉賛がある。
御奉賛とは、神社に贈られる寄付金の名称である。
どうしようもないと判断された子供や部下、あるいは消し去りたい人物をこの山へと送り「新たにした」記録が、いくつも残されている。
その感謝の印として、あるいは、この陽爻神社のメンテナンス代として、多額の寄付がされていた。
YさんやHさんが小学生の頃は、ここを遊び場としていた。
常駐の管理者がいないため、子供だけの場所とすることができたが、来るまでの距離が長く、また電波等も届いていないため、ごく少数しか集まらなかったようだ。
あるいは、そうした情報のみが伝わっている。
見上げれば、本殿奥には山がそびえている。
さほど高さのない、丘程度のもののはずだが、妙に険しく高い。
そこに住まうものが、陽爻神社における神とされる。
山の森深くに住まう蜘蛛である。
新たになるものは、この山より下りて来た可能性が高い。




