骨董品の可能性
その破壊は、あなたにとって無意味である可能性がある。
瑞阿津に居を構えるJさんは骨董品の収集が趣味だ。
だが、その収集の仕方は一風変わっている。
「へへ、壊すんだよ。庭にいい具合に尖った岩があってな、そこに叩きつけるんだ。これがまた、いい音するんだ」
手元に残すのは「本物」だけでいいという。
「古いことしか取り柄のない駄作が幅を利かせすぎなんだよ、俺が選別してやらなきゃいけねえ」
古伊万里の花鳥図、景徳鎮の龍紋大皿、剔犀の屈輪文花盆まで、Jさんの眼鏡に叶わなかった多くが破壊された。
「俺の手元にあるのは、俺が認める本物だけだ」
Jさん自身に鑑定作業の心得があるわけではない。
「だからどうした? どうして俺が専門家の言いなりにならなきゃいけない? 俺が買ったもんだ。俺がどうするかは俺が決める」
随一在という古物店は、なおさら気に入らなかった。
「いやあ、あそこは、酷かった」
ビル一階にある小さな店だという。
ネット上での売買を行わない零細店だが、Jさんが見る限り、大半に価値がなかった。
「……俺にも何がとは言えねえ。だが、気に食わないもんしか置いていない店だった」
その中でも特に嫌なものを厳選して買い取り、その日の内に叩き割った。
「馬鹿な話だ」
不機嫌に続けた。
「全部台無しにしてやったのに、ちっとも嬉しくなかった。壊さなきゃいけねえ、この世に残しちゃいけねえ、そんな義務感だけがあった」
翌日、同じ古物店を訪れると、補充がされていた。
「同じものだった」
たしかに昨日壊したはずの薩摩焼神絵大皿、楽長次郎作黒楽茶碗、サファヴィー朝時代のペルシャ絨毯などが揃っていた。
「贋作でもねえ、たしかな真作だった」
再び買い取り、再び壊した。
「ここまでくればわかんだろ。翌日に行っても、同じことになってたんだよ。わけがわからねえ」
文様のパターンはもちろん、ちょっとした汚れですらも同一だった。
店主に問い詰めたところで、知らぬ顔をされるだけだった。
「さすがに俺の金も無限ってわけじゃねえ、心底困ったよ」
尖った岩の周辺の散乱は体積を増やした。
「一度ものは試しってことで、壊さず家に置いてみた。そうやってから翌日また訪ねた」
補充はされていなかった。
「心底ホッとした、ホッとしたんだが、俺にとっては地獄だ」
Jさんにとって「気に食わないもの」が家の中に増え続けた。
「少しすりゃ慣れるかとも思ったんだが、無理だ。俺の脳みそはこいつらは真作だって言ってんのに、俺の身体はこんな悍ましいもんはねえ、今すぐ壊せと言ってやがる」
Jさんは黙って市職員を見つめ、それから頭を下げた。
「頼む。調子のいいことを言ってるとは思うが、あの気に食わねえもの、引き取ってくれねえか。俺の目の届かない所へやりたいんだ」
承諾するとJさんは喜んだが、翌日に持ち運んだ骨董品を市職員は視認できなかった。
「いやあ、助かったぁ」
新入りやアルバイトも同様に見えず、触れることもできなかった。
「なに言ってんだ……?」
そうした事実を伝えると、Jさんは激昂し、次に悲鳴を上げた。
誰も触れていないにも関わらず、骨董品にヒビが入ったという。
一個や二個ではなく、すべてが同時に。
そのヒビは大きくなり、ついには砕けた。
その破砕の音だけは全員が聞いた。
「なんでだ、どうしてだ! こんな酷えこと、どうしてするんだ!」
随一在という古物店は、どれほど調べても妙求市内にはなかった。




