網膜認識訓練についての可能性
それは有益ではない可能性がある。
先生を自称するその人は、訓練により誰でも見えないものを目視することが可能になると主張した。
「盲点は、わかりますか?」
比喩でなければ、眼球の視細胞がない箇所であり、人間が視認できない部分だと答えた。
「え、ええ、分かっているようですね。通常はこれは認識できません。両目で見ているため、盲点部分を補正するためです。しかし、片目だけでもこの盲点は認識できないのですよ」
同様に補正するためだ。
「そう! 実際に目で見た映像そのままではなく、脳による補正が常に行われています」
自称先生は目を示しながら続けた。
「フィリングインとも呼ばれるこの補正を切れば、より正しくものを見ることができる、そうは思いませんか?」
隣にいる新入りに尋ねたが、肩をすくめられた。
「マリオット博士の有名な実験があります」
事情先生は紙を取り出した。
● +
「片目を閉じ、左目ならば+を、右目ならば●だけを見ます。そうして顔を前後させ距離を調整すれば、ある一点でもう片方が消えます」
アルバイトが真面目な顔で行っていた。
「まずは盲点の存在を自覚することからはじめます」
自称先生は両手を広げた笑顔だ。
「脳による補正を切り、正しく物事を見る。これは恐怖を喚起します」
理由を訊いた。
「誰だって真実をそのまま受け入れることは難しいからですよ。今までの常識が違っているという可能性は恐怖だ。けれど、我々は知らなければなりません」
自称先生は立ち上がり、その場を回るように歩き出した。
「間違った情報を与えられ続けた脳は、物事を正しく認識できなくなります。必要なのは、正しさです」
例えばそれは何だろうかと促した。
「幽霊です」
帰りたい。
「昔であれば多くあった幽霊目撃情報が減り続けたのは、現代人が物事を正しく見えなくなったこともありますが、もう一つ理由があります」
新入りとアルバイトに促した。
「白熱電球の存在です。表面温度180℃にもなるそれが街中に溢れ、幽霊を駆逐した。けど、今はより温度の低いLED電球が一般的です。街中にて温度を出すものが減ったとも言えます」
アルバイトは、「この人、ヘンに思い込みが激しいですね」と述べた。
「そう! 盲点を意識し、世の中を正しく認識することで、今まで見えていなかったものが目視可能となります! 処理課にとってこれは、非常に有益な技術ではないでしょうか! 私が講師としてこの技術を伝授することが可能です。選ばれた方々にしか扱えませんが、あなた方はそれにふさわしい! そう、私が、この私が処理課に協力し、時に指示することでより正しくあることが可能となります!」
落ち着くよう自称先生に促して席につかせた。
新入りが、その膝の上に見えないブロックを置いた。
いまだ窃盗癖を発揮する新入りが運んだものだ。
類似物が隣の物置部屋には山積みだ。
自称先生は何度もまばたきをした。
「これは?」
これが理解できるかどうかを訪ねた。
「も、もちろん!? わかりますとも! これは、そう、あれですよね?!」
現在、何個が乗っており、新入りが何個を手にしているかを訊いた。
仮に不正解であれば、正解するまで膝に乗せる数を増やすとも伝えた。
自称先生は、突如として用事を思い出した。




