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市議会議員の可能性

その嘘は、利用される可能性がある。


Fさんは懺悔に来た。


「というか正直、今の俺が正気かどうかを疑ってる」


自身が行ったそれが、現実かどうかわからないという。


「だって、ありえない話だ」


Fさんは困惑し、当惑していた。


「冗談でやった選挙で、本当に当選してるとかさ」


それは本当に遊びだった。

市議会議員選挙に出るには、25歳以上であること、 立候補する市内に三ヶ月以上住んでいることが必要だ。


「あとは供託金な、30万円必要だけど、そこさえクリアすれば条件は整う」


しかも供託金没収点を越えれば返金される。


「仲間内で架空の人間作って、選挙やってみようぜ、って話になったんだよ」


画像をAIで作成し、名前はFさんのものを使った。


「選挙ポスターって、ルールとかねえのな。たぶん政治家が写真加工を遠慮なくやる都合なんだろうな。だから、俺とは似ても似つかない爺さんにした」


彼らの目標は、供託金没収点を越える票数を得ることだった。


「欲しい票数は有効投票総数÷議員定数÷10で、まあ、ざっと200票あればいい。それだけの人数を騙せば損せずに済む」


協力者をひそかに募り、活動はネット上に限定した。


「もちろん無所属で、公約は真面目なのとふざけたのを半々にして、どこまでギリギリ騙せるか、ってラインを探った」


ポスターの枚数は最低限に抑えた。

事務所も選挙カーも雑費もないため、費用はさほどかからなかった。


「まあ、本気で当選するならもっとノウハウとか工夫がいるんだろうけど、俺らが狙ったのはあくまでも200票越えだ」


街頭演説もできない候補者である以上、それが限界だった。


「……おかしなことになったのは、協力者が出てからだ」


仲間内のクローズドな活動に、資金面からの援助を申し出る人が出た。


「そいつはYって名乗った。簡単に調べたけど、普通の人ってことしか分からなかった」


裏のない、善意の協力者だった。


「さすがに騙すのは心苦しいからさ、こっちの内情を全部ぶちまけて、申し訳ないけど冗談だから、そういうのはいらないよ、って言ったんだ」


だが、変わらず協力は提示された。


「今考えると、俺らがそう言ってから、協力の持ちかけがもっと熱心になったと思う」


専門家が作成したポスターが多く刷られた。

選挙カーがFさんの名前を連呼し、いつの間にか借りられていた事務所では選挙祈願用の達磨が置かれた。

専門のスタッフが忙しなく走り回った。


「洒落にならないって思ったのは、この辺りからだった」


Fさんが目指したのは、できるだけ損の少ない選挙活動だ。


「いつの間にか、儲けてたんだよ。赤字どころか黒字だ。知ってる? 選挙期間中、飲食物を贈るのは法律違反なんだってな。けど、現金を贈るのはOKなんだ」


妙求市の裕福な人々が事務所を訪れた。

ジョークがリアルとなり、当初の仲間は離れた。


「俺等が完全に場違いになった、っていうのもある。けど、Yが俺等が分断するよう何かやったのもあると思う」


着々と投票日は近づいた。

その熱意と工夫と努力が、離れているFさんにも伝わった。


彼らは本気だ。

だが、あまり心配していなかった。


「だって、実際には候補者がいないんだぜ?」


当選するはずがない。

確実に破綻する。


「そう思ってた。思ってたのに……離れていった奴から、連絡があった」


一人ではなく数人からの、慌てた報告だった。


「俺が。いや、俺の名前を騙った奴が、駅前で演説してた」


AIで作った架空の人物だ。

だが、その外見のままの人間が、よく通る声で演説をしていた。


医療や子育て支援、神社仏閣保護に地域コミュニティ作りなどの間に、Fさんたちが冗談で入れた妙求市遊園地化計画、おやつ代の制限撤廃なども大真面目に主張した。


「……きっと外見を似せた役者とかなんだ、そう納得しようとした。現実的には、それくらいしかないよな。無理だった。なんでそこまでする? ……いや、悪い、まだ混乱してる。けど、心底気色悪かったんだよ」


これ以上はもう協力する気にはなれなかった。


彼らの活動を止めるべく動き出した。

戸籍やパスポート、マイナンバーなどFさん自身の証明を用意し、選挙管理事務所へ行き、彼らの不正を訴えるつもりだった。


Fさんも何らかの罪に問われるかもしれないが、現状よりはマシだった。

同姓同名の偽物が堂々と選挙をしている。


「憶えているのは住民登録上、俺といっしょに住んでる奴がなぜかいた、ってことを確認したところまでだ」


心当たりはなかった。

狭いアパートでの一人暮らしなのに他人が住めるはずがないだろうと文句を言おうとして以降、Fさんの記憶は途切れる。


「気づけば、殺風景な家にいた。誰か知らない家だった」


表札を見ればYと書いてあった。


「いつの間にか、数日が経過していた」


すでに投票日は過ぎていた。


「笑えるだろ? 俺が、俺の名前のやつが当選してた」


Fさんは呆然とするしかなかった。


「ここで俺が騒いだところで、もうひっくり返せない。だって、実際に選挙をやっていたのは、アイツだ。俺の名前を勝手に使ったどっかの誰かだ。選挙管理の連中だって、自分たちの目が節穴だって認めるとは思えない。しかも、ポンと気軽に個人献金できるような連中があっちの味方をしている」


警察は機能しておらず、完全に八方塞がりだった。


「なあ、だから、きっと俺が夢を見てただけなんだって納得したいんだ。クソ、どうしてあのジジイ、マトモに市議やってんだよ……」


戸籍上、Fさんと同姓同名の祖父がいるが、Fさんに心当たりはなかった。


F市議は現在も活動を続けている。


挿絵(By みてみん)

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