Y家調査覚書
Yさん宅の捜査を行った。
対処課単独の調査となる。
以前、類似した事件を調査した際、警察が現場を破壊したためである。
偽警官による証拠隠滅がなされた。
対象は妙求市の丙玲三丁目ニ番地にあるニ階建ての一軒家であり、ここ三日間、人の出入りは確認されていない。
Y家玄関は鍵がかけられておらず、侵入は容易だった。
電源スイッチを押したところ反応はなかった。
ブレーカーが原因ではなく、LEDライトそのものが壊れていた。
市職員の携帯電灯にて照らしたところ、室内に荒らされた様子はなかった。
家具類は倒れておらず、タンスや引き出しなどが開いた様子もまたなかった。
電気は冷蔵庫にも通っておらず、一部の食品が腐りはじめていた。
ノートパソコンやスマートフォンを回収した。これらは回路が焼き切れ、情報を抜き出すことができなかったと後に確認されている。
部屋は五つあった。
主にニ階を生活圏としていたようだ。
家族構成は三人、父親は市内の家具販売店で営業をしており、母親は市内のスーパーでパートを行い、子供は妙求第二中学に通っている。
この三日間、全員が休みの連絡を行っていた。
電話ではなく、メールやLINEなどによるものである。
父親は有給休暇消化のため、母親は子供が熱を出したため、子供は旅行のためだと伝えていた。
しかし、連絡を取るための手段がこの家にはない。
機械類がすべて壊れており、ネットに接続できるものがない以上、連絡は異なる場所からだと思われる。
特記事項として、ニ階の子供部屋の本棚がある。
マンガ本を詰め込んだものが、窓際の傍に置かれていた。
不自然に敷かれたカーペットをめくると、本棚を引きずった痕跡が認められた。
いくつかの血痕も床に散っていた。抵抗した跡だと思われる。
血痕がある以上、犯罪として立証は可能だろう。
まだ正気を保っている警察がいれば、県外への応援も叶う。
しかし、機械類を持ち運び、血痕を採取すべく引き換えしたタイミングで、Y家の住人が帰宅した。
時刻は午前二時だった。
父親はスーツ姿であり、母親はエプロンを着ており、子供はパジャマ姿だった。
三人は笑顔だった。
市職員の行動を問い質すことなく、「ごくろうさまです」とだけ言い、すばやく内側から鍵をかけ、市職員を締め出した。
三人が入った後、当然のことながら室内に電気がつくことはなかった。
行方不明者たちが帰宅したため、市職員としてはこれ以上の手出しができなくなった。
以降、三人が帰宅する様子が定期的に目撃された。
一週間が経過した今も、Y家の住人は休みの連絡を取り続けている。




