73 恩讐の炎、復讐の牙(14)
先生が俺にとって都合がいい存在だって? 確かにそれはそうだ。
親のいない俺を慰めてくれた。村の中で一人だった俺に寄り添ってくれたただ一人の大人だった。俺が旅に出る時も同行すると言ってくれたし、《臨界》なんて切り札も教えてもらった。
でもそれなら、ユーリやウンコの神のほうがよっぽど都合がいい存在じゃないか。2人がいなくちゃ、俺は村から一歩も外に出ちゃいない。
けれど、その2人は今は関係ない。見極めるべきは先生の正体と意図だろう。わずかに残っていた冷静な思考が、自分の言い訳すら握りつぶした。
俺は苦虫をかみつぶしたような顔になって、キララさんに向きなおった。
「続けてください、キララさん。俺は魔法陣のことも知らなきゃいけないんでしょう?」
「わかった。その魔法陣は常にお前の健康状態をあいつに送るビーコンだ。お前の体調が悪くなった時あ
いつに知らせる機能がついてる。なんでも、ついさっきまでお前にゃひどい圧力がかかってたんだと」
「……あってます。逃げるオルトロスに追いつこうと無理やり加速したので」
オルトロスの背中を追いかけようとする俺の身体には、加速が原因の圧力がかなりかかってた。そうか、それが先生には俺の危機だと感じられて転移させたと。
…………。
……………………。
確かに、不思議には思っていた。体調がすぐれないとき、このまま死ぬのかと病気に苦しんでいたとき、先生は決まって村に訪れて看病をしてくれた。
神か何かだと思った。こんなに優しい人がいるのかと思った。
とても、とても都合がよかった。そりゃ俺の身体が救援信号を放っていたんだったらわかるよな。
でも、よく考えたら先生に背中を触られたって記憶はないんだよな。魔法陣なんて精密なものを刻むなんてちゃちゃっとできることじゃないだろうし、他の村人に見られでもしたら何をしているのかと疑惑の目を向けられるはずだ。
そんなリスクをわざわざ犯す人とも思えない。だとすれば、俺の背中の魔法陣は最初からあったものだと考えるべきだろう。それこそ出生時に刻まれたに違いない。
もしかしたらココガ村の人が俺に忌避感を抱いていたのは、背中からのぞく魔法陣もあってのことだったのかもしれない。確かに背中に魔法陣のある人間なんて怪しんで当然だよな。いつそこから何が飛び出してくるかわかったもんじゃないんだから。
まあ、ウンコの神は肛門から出てくるんだけど。
…………そっか。先生が、俺の親か。
じゃあ何で俺を捨てたんですか。俺を捨てたのに、どうして他人面をしてまで村に来たんですか。
言葉にならない悲しみが胸に去来したが、俺はそんなことキララさんの前で言うことじゃないと心にブレーキをかけて自制した。
我慢が精神によくないものだと理解していながら、俺は俺の精神を抑えつけるのを止められなかった。




