72 恩讐の炎、復讐の牙(13)
俺は混乱した。俺の背中に魔法陣がある。何のために? いつ? 誰が? どこで刻んだんだ?
「これ、これって……!」
「落ち着け。混乱するのはわかるが、別にお前の命を蝕むものじゃない」
「いやだって、誰がこんなこと……!? あ、先生か」
俺は落ち着いた。そもそも俺の背中に触ろうとする人間なんて村じゃ先生くらいしかいないし、スウォールでもそこまでボディタッチ多めの人間いなかったし。
交友関係が少ないが故の消去法である。俺の灰色の脳細胞がフル回転だ。
「……そこで落ち着くあたり、なんというか。心配して損した」
「お、アタリですか。って、わざわざ俺を先生から遠ざけたってことは、キララさんは俺がこの魔法陣のせいで先生に突っかかるかもって思ってたんですか?」
「そりゃ普通そうだ。田舎育ちでも、これがマトモじゃないってことは察せるだろう?」
まあ、本人に許可を得ないで身体に落書きだなんてひどいイタズラだ。俺は頷いた。
とはいえ先生がしたことなら俺としては何も問題はない。多分気遣いか何かだろうし、拒絶でもしたらそれこそ先生の心遣いを無下にしてしまう。
先生に俺を害する意図があったなら、何度だってチャンスはあったのだし。
「で、先生がどうしたんです? この魔法陣なら俺は気にしてませんよ」
「あれはお前の母親だ」
「はい?」
いくらなんでも情報量が多すぎる。俺は再び混乱した。
なるほど先生が母親。でもそれだと先生が俺を村に一人置き去りにした人でなしになるんですけど。
「名前はメティス。偽名だろうがな」
「いやいや、流石に騙されませんよ。というか大事なのは俺の背中の魔法陣であって、先生の正体とかなんて関係ないでしょ?」
「大アリだ。不思議に思わなかったのか? あいつほどの魔術師が無名のまま地方を漫遊していたことが」
不思議といえば不思議だが、これまで考えることもしなかった。
高熱が出たときも、流行り病にかかったときも、先生は俺やほかの村人を分け隔てなく癒して回っていた。俺だけを贔屓していたとか、そんな人じゃない。
それに、俺と先生は全く似ていない。先生の髪はピンク色で、俺は茶髪。そりゃ親子の間には絶対似ている部分があると断言するのはよくないだろうが、それにしてもだ。
俺と先生は他人だ。先生に子どもがいたなら、あの人はその溢れんばかりの愛を自分の子どもに注いでいたはずだ。先生が俺の親だったなら、俺を村に一人置き去りにするなんて到底考えられない。
「そんなの、先生が優しいからでおしまいじゃないですか。あの人は村という村を回って無償で治療してくれるんです。俺だって何度も助けてもらいました」
「――それを、自分に都合がいいとは思わなかったのか?」
「え、」
「お前、村じゃ嫌われてたそうじゃねえか。普通な、村中で好まれてない人間をほかの村人と同じ扱いなんてしねえよ。顰蹙を買うってわかるだろ?」
「だってそれは、先生が」
「優しいからだ、ってか? そうだな――お前にだけは特別優しいな」
冷ややかなキララさんの言葉が、俺の心臓を貫いた。




