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58 思わぬ躓き

 協会の一角で俺と先生の舌戦が繰り広げられている。横にはキララさんもいた。先生に無理やり同伴させられたのだ。とはいえキララさんは他人事だとばかりに滅多に口を開かない。


「俺が何しようが俺の勝手じゃないですかっ、先生になにか否定する理由でもあるんです!?」

「~~~~っ百歩譲って、この街でオルトロスを待ち受けるのはよしとしましょう! というかしました! 防衛力のある防壁や壁上の砲台も、頼れる冒険者やそれを支援する態勢もここにはあります。それを全て投げ出して突っ込むことの愚かさがわからないあなたじゃないでしょう!?」

「じゃあアーリャがどうなってもいいんですか! 明日の夕方までに保護できたとして、そこまで生きてるって保証を先生がしてくれるんですか!?」


 先生は激怒一歩手前の顔だった。俺が難度の高いアーリャ救出作戦もといオルトロス急襲作戦に参加すると口にしてからずっとこれだ。


 俺の声にも隠しきれないほどの怒気があった。先生とはなんだかんだで同じ方向を向いているものだとばかり妄信していた。やっぱり決めつけるのって良くないなと俺は思った。


 振り返ってみてわかった。これまでの全部、ずっと俺が先生に譲歩させていただけじゃないか。それに気づいたとき、俺の心に鈍痛が走った。頑張って顔には出さないようにした。


 ちなみに決行は明日の早朝。今すぐにとは言わない理性が支部長に残っていたようで幸いだった。それでも、それまでに先生を説得できる材料がどこにも見当たらない。


 ――そもそも、説得なんてする必要あるのか? 


「……先生が反対しても、俺は行きますからね。怪我するのが嫌なら、先生はここにこもっていればいいんです。俺は先生の付属品じゃない、やりたいようにやらせてもらいますから!」

「何を見通しの甘いことを言っているんですか! 雰囲気に飲まれちゃいけません、気分だけで英雄になれるなら棺職人の商売は上がったりですよ。……ってキララさんも何か言ってください!」

「無理だな、何言っても聞きやしない馬鹿の目だ。しかしなんだ、勇者の剣を探す旅なんだろ。寄り道してていいのか?」


 キララさんにそう問われた俺の心に、一瞬だけ迷いが生まれた。けれどそれはすぐに晴れた。


「俺にとって、勇者の剣っていうのは俺の親友との友情の証というか」

「目を血走らせてまで追いかけるものでもないってか?」

「はい。この旅の果てに勇者の剣が見つかるのかそうじゃないのかなんて、神様でも分からないことじゃないですか」

「余は確信しているぞォ、イーヴィル! お前がその歩みの先におばばばば」


 ちょっと黙ってろよウンコの神。比喩に突っ込むのはルール違反だろうが。肛門から出てきたウンコの神の顔を俺は鷲掴みにして振り回した。


 キララさんも先生も、ウンコの神の間の悪さに目を逸らしている。

 俺はコホンとせきをして場を取り直した。


「ええと、例えば勇者の剣をもう誰かが見つけてて、それを奪ってでも手に入れたいっていうのは野蛮じゃないですか」

「それを手に入れるのが、ユーリくんとの約束だとしてもですか」

「はい。俺は親友の精神(ココロ)に恥じない俺でいたい。たとえ俺がそれを手に入れることがなくても、伝説を追いかけ続けていた親友に誇れる俺でいたいんです」


 それに、俺じゃなくていいんだ。俺じゃなくていいんだよ先生。俺が勇者の剣を見つけても、誰かが先に手に入れていても同じことなんだ。


 友情は貢物で成立するものなんかじゃない。たとえ旅の果てに俺が見つけたのが剣の鞘か台座だけに過ぎなかったとしても、偽物の剣でしかなかったとしても、それまでに重ねた旅路は間違いじゃない。


 そう誇れる自分でいたいんだ。助けたいと思ったものから背を向けてまで手に入れたものを、俺はユーリに誇ることなんてできやしない。


 先生は考え込んだような姿勢になると、


「イーヴィルくんは、そんなにアーリャさんのことが好きになったんですか……?」

「えっ」

「ん?」


 と、トンチンカンなことを言い出した。キララさんもこいつマジかとばかりにジト目で見ている。


 もしや先生には、俺がアーリャを助けたいがために勇者の剣を引き合いに出していると思われている……!? 想定していなかった返答に俺は少し挙動不審になった。


「そりゃ1週間も一緒に過ごしてれば情も生まれますって! 俺は純粋に――」

「純粋とは何ですか純粋とは! 1週間も同じ屋根の下で過ごしていたんでしょう!?」

「おいおい落ち着け、バズーがそんな真似させるやつとでもいいたいのかお前は」

「そもそもわたしはバズーさんと全く話したことなんてありませんが――!?」

「くそっこいつ開き直りやがった! 知らなかったよ、お前こんなに面倒なやつだったんだな!」


 会議は踊る。対話が空回る。紛糾したまま収まることはなく、お互い頭を冷やそうとこの場は一時解散ことになったのであった。お互いの意思と決定に、晴らしきれない不満を募らせながら。

先生と支部長に面識はありません。でもキララが手紙で教えた、「神話オタクでロマン馬鹿のピンク髪の魔術師のおかげで、死者が最低限で済んだ」との情報から、支部長は先生について少なからず知っています。

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