50 涙の後には虹がかかる
これは後から知ったことで、この時の俺には知る由もないのだが。
得意な魔術の属性、つまり《臨界》時の髪色は親から子に遺伝することが多いらしい。
別に、それがどうということもないのだが。
俺はわんわんと泣き出した先生を必死にあやしていた。とはいえできることなんて背中をさすることくらいしかなかったが。
先生は泣きながらも《臨界》の豆知識について語り始めた。
「ううっ、一度魔術を使うと、魔力のエネルギー変換に身体が慣れてしまうんですっ」
「すみません先生、俺に含蓄がないせいで話の筋が見えてきません!」
「魔術になる前の魔力を、保持できなくなる、のです。なまじ魔力を魔術に変換する技能が身についている人ほど、《臨界》は習得しづらい。わたしはそう考えましたっ」
「そうか。先生が俺にすぐ《臨界》を教えたのは、まだ魔術を使えないけど、魔力を扱うのだけはできる状態にあったから! そういうことなんですね!」
「はいぃ、そういうことですっ」
これでわたしの仮説が証明されました、と泣き笑いの中で言葉を吐く先生。ほほう、俺は先生の仮説立証のためのモルモットだったと。それは良かった、俺はウンコの神に頼らずとも戦う力を手に入れて、先生は自分の考えが正しかったと知ることができた。ウィンウィンというやつだ。
しばらくして先生は泣き止んだ。恥ずかしいところを見せてしまいましたねと照れ顔を浮かべる先生の表情は率直に言って綺麗だった。
しかし、聞けば聞くほど難儀な技だと思わされる。魔術の才能がありながらも、魔術を使ったことのない人間でなければ習得は難しい。先生でさえ5年もかかったのだから、俺も魔術を先に使えるようになっていたならばその倍は時間をかけたことだろう。
改めて先生には頭が下がる思いだ。軽々に俺に魔術を教えることをせず、あえて困難な道を俺に提示してくれたのだから。
それはそれとして俺の頭に疑問が浮かんだ。肉体の強化なら《変身》と効果は変わらない。それぞれの強みをいったん整理したほうがいいだろう。
《変身》は、ウンコの神の鎧を纏うこと。身体能力はなぜか上がる。空中浮遊と射撃が主力で、先日近距離戦に使える《炎刃》もどきを習得した。
《臨界》中は魔力があふれてくる。魔術を習えば習うだけこの形態の価値は上がるだろう。とはいえ身体に無理をさせている感が否めない。《変身》と比べて長時間の維持はきつそうだ。
「……というか《臨界》って、《変身》と両立できるのか? できたとして、どのくらいパワーアップできんのかなあ。神様そこんとこ分かる?」
「できなくはないが、難しいだろうなァ。あれは己の身体を極限まで鍛造すること。対して《変身》は最強の鎧を纏うことが本質。攻撃力はともかく、防御面ではおそらくさほど変わりはあるまい」
最強は過言だろうが、内容にはおおむね同意できた。裏を返せば、俺が叩き出せる最高火力は《変身》と《臨界》の併用の先にあるということになる。
なら試すべきはそれだ。俺は《臨界》を保ったまま《変身》してみた。俺は爆発した。
爆風が鎧の中で反響したため、ただ爆発するよりも俺に返ってくる衝撃は甚大なものだった。
「い、イーヴィルくん!?」
「ぐほっ、やっぱり両立は難しいか……がくり」
「阿呆め、手順が逆である。《変身》で纏う鎧も肉体の一部と捉えてから《臨界》を調整するのだァ」
「わかってたなら、もっと早く言えっての……」
「できるだけ黙っていろと言ったのはイーヴィル、お前であろう。失敗もまた糧とし精進するがよい」
けっ、正論なことで。俺はその場に倒れこんだ。
Q つまり《臨界》って何?
A 身体機能の増築。




