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49 臨界到達

 自分の魔力で自分を爆破した愚かな俺は、どうやら先生の話を聞かずそのために失敗したらしい。なんでも自分ひとりで《臨界》に辿り着こうとすると高確率で失敗するので、先生が補助をしてくれるとのことだった。


「イーヴィルくんがやったのは、まさに《臨界》の開発者が試行していたものです。度重なる失敗で彼の研究所回りの地形は軽く傾いていたとか。ひとりでは限界に気づきにくいのです」

「でも、自分の魔力でできないなら――あそっか、自分の魔力を感じるためのあれがあった!」


 先生はにっこりと笑って頷いた。まったく、先生の教え方は素晴らしいな。最初から俺に答えは提示されていたんだ。生徒冥利に尽きるってものだぜ。


「そう、やり方は一緒です。ふたりで杖を握ってわたしが君に魔力を流します。しかし今回は流した魔力を戻すのではなく、限界まで身体の中に貯めてください。事故を防ぐためにゆっくりと流し込んでいきますけど、違和感や痛みを感じたらすぐ杖から手を離してください。いいですね?」

「はい、さっきは先走ってすみませんでした!」


 先生が馬鹿だと言っていた《臨界》の開発者も、まずは俺みたいに自分の身体で試していたのだと聞いて何だか親近感を感じた。しかし地形を軽く傾かせるとか、いったい何回失敗を重ねたのだろう。恐るべきはその執念。きっといつか成功すると心の底から信じていなければ、先に心の方が折れていたはずだ。


「ではいきますよ、再度伝えますが――」

「変な感じがしたら手を離す、ですね。わかってますよ」


 先生の声で集中力を取り戻した。杖を固く握った腕から伝わってくる細々とした先生の魔力を、逃がさずに滞留させる。ああ、他人の魔力はくっきりとしていて感じやすい。本来俺の身体から見れば異物だからだろう。どこまでなら貯めていいか、どこから先は危険かがなんとなくわかる。何もかもがぼんやりとしていた先ほどまでとは段違いだ。


 己の形を知り、己の器を知る。それはとても単純でとても大切なことだ。流入してくる先生の魔力は徐々に俺の限界にまで近づいてきていた。俺は声を上げた。


「先生、もうすぐ魔力を止めてください」

「わかりました。気分は悪くありませんか?」

「まあなんとかって感じです。ここからは何を?」

「今の君は、わたしの魔力をただ貯蔵しているだけの状態です。難しいことを言いますよ、魔力をどこにも出さないまま空にしてください」

「は、はい!?」


 俺は困惑した。先生の言っていることが滅茶苦茶だ。消費しないのに空にする。コップの水を飲まずに空にしろと言っているも同然だ。物理的に不可能じゃないか。


 ……いや、待てよ。今の俺は貯蔵庫だ。魔力がそこにあるだけの状態だ。魔術か魔力を放とうとすれば、そこから魔力を引き出すことになる。


 引き出してから放つまでの空白は、どうなってる? 俺は魔力を放つ手順を分割した。自分の身体から魔力を引き出す。手のひらに意識を集中させる。狙いを定めて放つ。この3つだ。

 つまり、全身を魔力を放つ直前の状態に保つんだ! そうすれば魔力を身体に残しつつ、残った魔力を空にできる。それがきっと《臨界》の正体なんだ!


 俺は集中した。秘奥に手が届くまであと少しだと自分を奮い立たせた。


 ――火種が灯った。心臓のあたり。それは導火線だった。瞬く間に肉体が着火する。燃えて、拓いて、また閉じる。炎が循環する。肉が沸き立ち骨が爆ぜる。


「……できた」


 確信があった。正解を知らないながらも、今の自分がその段階にあるという確信が。 

 《変身》と似た感覚だ。身体が別物になったかのように軽い。魔力が際限なく湧き出てくる。そして何故だかわからないが前髪は赤く染まっている。《臨界》は髪色を変える効果もあるのだろうか。


 杖から手を離して変化したこの身体を試そうと思った矢先、先生が涙ぐんでいることに俺は気が付いた。


「イーヴィルくん、ぐすっ。よくできましたねっ。わたしは嬉しいです」

「え? 先生、なんで泣いているんですか!?」


 俺は動揺した。褒められるでも喜ばれるでもなく泣かれるのは予想外が過ぎた。


「その髪は、《臨界》の影響です。最も適性のある属性の色に染まるので、イーヴィルくんに最適な魔術はっ、炎かそれに類する魔術だとわかります」


 そんなこと教えられたって困る。先生が泣いていることの方が緊急事態だ。


「だから、先生が泣く理由を教えてください! 何かやらかしたのなら謝りますから!」

「教え子が自分を越えて嬉しく思わない師匠なんて、泣かない先生なんていませんよっ……うわあああん!」


 先生の号泣があたりに響いた。俺は人気のないこの場所を練習場所に選んでおいてよかったと、自分の判断に心底感謝した。

 先生は涙ながらに教えてくれた。先生が《臨界》を習得するまでには実に5年の歳月を費やしたらしい。


 かけた時間を比べるならば、確かに俺は先生を越えたのだろう。でもそれは先生の教えあってのものだ。決して俺の才能だとかそれだけの話じゃない。

 ありがとう先生、あなたのおかげで強くなれた。俺はそう先生に伝えた。

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