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48 べらぼうな夢はあるか

 先生は俺を褒めた。飛び跳ねそうな声色だった。


「すごいですよイーヴィルくん! まさか一発で成功するなんて!」

「先生の教え方が良かっただけですよ。それで次は何をするんですか?」

「魔力の塊を撃てるようになったら、あとは呪文を覚えるだけです。ここでなくてもできますから、他のことに時間を割きましょう」


 俺としては呪文の暗記にかなり時間がかかりそうだが、この勢いに水を差すこともないだろう。俺は黙ってうなずいた。


「せっかくなので、ちょっと段階を飛ばしてやってみたいことがあるんです。ちょっと待ってくださいね、確認しておかなきゃいけないことがあるので」


 俺は感覚の確認とばかりにもう2,3発魔力を上空に飛ばしてみた。問題はない。あるとすれば、先生の杖を握っていなければ撃てないことだろうか。杖から手を離して放とうとしてみたものの、うんともすんとも魔力が動かなかった。

 さては、《変身》してるときのあの鎧が杖のような役割を果たしているのではなかろうか。俺は考察した。


 先生はウキウキした様子で手帳をめくり始めた。段階を飛ばす、と言っていたがどのように飛ばすのだろう。魔術の知識に乏しい俺には、魔術が呪文を唱えて炎か何かを出すものとしか捉えられていない。少なくとも俺の頭が弾き出した、飛ばすという言葉が意味するものは――


「もしかして、呪文なしの魔術とかですか?」

「まともな魔術師ならそれを教えるでしょうね。でもイーヴィルくんはわたしみたいに才能があるので、何も教えなくてもそのうちできるでしょう。だから今は教えません」


 手帳のページを行ったり来たりしながら、先生は俺に才能があると口にした。

 その言葉はがっしりと俺の心を鷲掴みにした。


「才能、ですか」

「ええ、才能です。君には魔道に踏み出す権利があるのです。たとえどれだけ望んでも、立ち入ることが許されない人間の血の涙であふれた道に」


 先生は続けざまに、一般的な魔術師見習いの出来について俺に説明した。まず自分の魔力を感知できるようになるまで1カ月。魔力を塊にしてまっすぐ身体の外に飛ばすことができるようになるまで半年。


 しかもそれが、すべて魔術を扱える才能のある人間の話だというのだから俺は驚愕した。なんだか先生が話を盛っていることの方が信憑性があるように感じられた。才能なんて言葉からは縁遠い生活だったものだから。


 俺はユーリの言葉を思い出していた。彼は魔術はからっきしだったと残念そうにこぼしていた。反対に俺は剣の腕がからっきしだ。毎朝起きたら素振りは欠かしていないんだが、打ち合いに付き合ってくれた先輩冒険者には、性格に合った別の武器を探せと言われた。


 もし、ユーリがケガを負うことがなくて。終わらなかった彼の旅路に俺がついていたら。背中を預け合える仲間になれていたのかな、なんてもしもの今をを想ってしまった。


 俺は甘ったれた思考を振り払った。大事なのは今だろう。オルトロスと戦う前にものにできる力があるのなら、貪欲に求めていくべきだ。


「さて、次は魔力を体の中で練ってもらいます。これを魔術用語で《臨界》と言います」

「えっと、全然わかりません。魔力を練るって具体的には何をすれば……?」

「大丈夫です、1から説明しますよ。先程のように魔力を放てば、それだけで攻撃になることは語るまでもありません。ですが、ある時ある場所にとんでもない馬鹿がいました」


 先生は一瞬自嘲したような顔になったが、見間違いとばかりにすぐ元の顔に戻った。


「とんでもない馬鹿、ですか?」

「はい。彼は外に出すはずの魔力を、無理やりにでも()()()()()()()()()()()()()()()()検証しようとしたのです」

「それは……身体がヤバいのでは?」

「ヤバいです。最悪身体が破裂します」

「ひえっ」


 もしもし先生、さてはそれと似たことを俺にさせようとしてない? 流石に命に危険が及ぶ直前で何かしらのセーフティが働くとは信じているが……信じてますからね先生。

「過程は省略しますが、彼は最終的に成功しました。その結果我々の肉体には《臨界》という、身体機能のアップデート先が存在していることが判明したのです」


 才能がある人間の中からさらに一握りの才能を持っている魔術師しかできない秘中の秘、と先生は俺に告げた。それをどうして先生が知っているのかとかは聞かないほうがよさげですかね? 俺は怪訝に思った。が、強くなれる分には歓迎なので聞き流すことにした。


「つまり、その《臨界》ができたらめっちゃ強くなると?」

「はい。大切なのは魔力を全身に行き渡らせるイメージです。自分を泡だとして、泡を割らないように中を水で満たす感覚です」

「や、やってみますっ」

「え、いやまだ手順があってですね――」


 えっと、泡を水で満たす。身体を泡、魔力を水に見立てて、決してそれを破らないように。全身に行き渡るように――


「ぼげはぁっ!?」

「い、イーヴィルくん!?」


 俺は爆発した。誰が芸術だ。

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