47 魔術の使い方
ふと空を見上げれば日はほとんど夕暮れに染まっていた。もう数時間もしないうちに日暮れが来る。
俺は数日前に支部長と模擬戦を繰り広げた場所に足を運んだ。ここは幼体のオルトロスと戦った場所でもある。ここに残っていたオルトロスの痕跡はひとつ残らず精査され、数日前まではいたという調査員の姿もなかった。
つまり何が言いたいのかというと、ここは相変わらず周りの被害を気にしなくていい場所だということだ。
「それでは魔術について教えます。とはいえ詳しい分類とかは脇に置いておいて、使い方の伝授に絞ります」
「使い方っていうか呪文ですよね?」
「はい。詠唱無くして魔術なし、です。例外もありますけど、今は関係ありませんね」
フェニックスとかいう燃える鳥を呼び出した時にも、先生は難しい言葉をスラスラと詠唱していた、しかもメモも何も見ないで、だ。正直に言って同じことができる自信がない。むしろ噛む自信がある。
「となると神様の力は、魔術じゃなかったのか……? 技を叫んでいるだけだよなあれ」
「我がしもべよ、《変身》もまた一つの魔術であるぞ? 魔術すべてが長ったらしいわけでもない」
「神様、聞いてもいないことを教えてくれてありがとう。今日は先生との逢瀬なんだから口は閉じてろって言わなかったか?」
「もう逢瀬ではあるまいよ。これは授業だ、浮かれた気分を持ち込むことの方が無礼ではないか」
ぐうの音も出ない正論だった。先生も苦笑している。
「では、自分の中にある魔力を捉えるところから始めましょう。わたしの杖を両手で握ってください」
促されるまま、俺は先生の杖を握った。先生もまた俺の手を握りこむようにして杖を掴んでいる。地面から俺の喉笛までほどもある長さの杖の先には、赤色の宝石が埋め込まれていた。目を凝らして見なければ見落としてしまいそうなほどの、小さな輝きだった。
「わたしが君の右手に魔力を流すので、腕を通じて左手に流してわたしに戻してください。下手に力むと魔力が反発したり逆流しますから、リラックスしてくださいね」
「右から左に、リラックス……」
「魔力の流し方を知れば自分の中にある魔力もわかります。他人の魔力と自分の魔力は混ざりにくいので、魔力に気づかせるにはこれが一番なんですよ」
杖の先の宝石が赤く光ると、先生の言った通り右手から流れ込んできたエネルギーは自然に流れ、スピードを落とさないまま左手に向かっていった。その途中、流れの中に大岩が存在しているような感覚に遭遇した。
なるほど、これが俺の魔力か。心臓辺りにごつごつしたようなエネルギーの塊がある。
「ありました、先生。胸のあたりに塊みたいな何かがあります」
「上々ですね」
よし、と頷くと先生は魔力を止めて杖から手を離した。俺も続いて手を離す。地面に突き刺さった杖は直立したまま、放っていたはずの赤い光を失っていた。さては魔力に反応して光るのか、アレは。
「あ、イーヴィルくんはそのまま杖を持っていてください。ありとなしとじゃ難易度が段違いなので。次は魔力を飛ばす練習です」
「こんな感じですか?」
俺は魔力を動かすコツをつかんだ。杖を掴むと同時に、空に向けていくつか魔力の玉を発射してみる。何のことはない、《苦悶の咆哮》や《天使の沈黙》とほとんど同じ感覚だった。
どうやら俺は既に魔力の使い方が身についていたらしい。先生もびっくりしている。




