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45 路傍の石

先生視点です

 やってしまった。何ってそりゃ、話題を逸らそうと趣味について語りすぎて、イーヴィルくんに気を使わせてしまったことが、だ。この短時間で何回「へえ~!」や「そうなんですか!」を言わせたことやら。大人として胃が痛い。


 路上で話し込んでしまったのも悪印象に違いない。せめてどこか座って話せる場所に移動するべきだった。今の彼はとても憔悴している。

 でも面白いのが悪いんです。人間の決断と苦悩、それに至るまでの背景。それらが作り上げた文明という紋様が、歴史という編み物が、わたしを惹きつけてやまないのが悪いのです。


 それはそれとしてわたしはイーヴィルくんに詫びた。


「ごめんなさいイーヴィルくん。お詫びにわたしの奢りで何か食べましょうか。あそこの屋台とかおいしそうじゃありませんか?」

「いいんですか、ありがとうございます先生!」


 わたしは串焼きの屋台へ歩いていった。後ろにイーヴィルくんも続いた。タレとお肉の焼ける匂いが鼻をくすぐる。辺りにはかぐわしい香辛料らしき香りも漂っていた。そういえばスウォールではハーブも栽培されているのだったか。郊外の屋台でも使われるくらいには流通しているらしい。リーシャさんの手腕だろうか。


「へいらっしゃい。カエルの串焼きいかがっスか――え、姐さん!?」

「あら、どなたでしたっけ?」


 店番をしていた青髪の青年が、わたしを見るや否や飛び上がった。生憎とこちらには覚えがない。顔色を見る限り恨みを買ったようではないみたいだけれど、はたして。


「先生、こいつ見覚えがあります。先生が潰したギャングの下っ端の、確かえーっと……ゲロだ!」

「テッドだよっ、テッド。 姐さんも思い出してくださいよ、オレの雄姿! 姐さんに一目惚れしたオレは姐さんと敵対するリーダーを説得するべく間に割って入り――」

「ああ、リーダーさんに首根っこ掴まれてフェニックスの盾にされてた人でしたか」

「おかげでリーダーへの愛想も尽きて串焼き屋に転職し、いまや串焼きの達人! お代はいりません、なんなら全部持ってってほしいッス!」


 流石にそれはできません。テッドくんはそれを聞いて大袈裟にうなだれた。


 わたしは串焼きを4本購入して、半分をイーヴィルくんに渡した。カエルの串焼きは不思議な触感だった。表面はパリパリなのに中はふっくらしている。


「あれ、意外とうまい。やるじゃんテント」

「テメエの感想はノーセンキュー。後で姐さんとの関係吐かせてやるから覚悟するッス。恋人とかだったらただじゃおかねぇ、それとオレはテッドだ名前間違えんな」

「美味しいですね、これ。いい焼き具合です」

「姐さんに気に入ってもらえるなんて、串焼き始めた甲斐があったってもんッス。つきましては()()()()()()()()()()()()。いつまでも姐さん呼びじゃあ距離が縮まんないッス!」


 にやけ顔のテッドくんが、もみ手でわたしの名前をせがんだ。どうやら距離を縮めたいらしい。

 困った。認識妨害の魔術は、強い精神力を持った人間相手には効果が薄い。つまり、この人はそれほど本気でわたしに好意を抱いているということになる。


 ちらりとイーヴィルくんの顔を見る。お願いです助けてください、こういう手合いは苦手なんです。何か適当な理由をつけて離脱しましょう。

 イーヴィルくんが任せてくださいと言わんばかりに頷いてテッドくんとの間に割って入ってくれた。よかった、伝わったらしい。


「何言ってんだお前、朗らかな性格、完璧な容姿! その中にに一粒のミステリアスが交ざってるのがいいんじゃないか。お前は神秘のヴェールを剥ごうとしてる変態だっ」

「えっちょっイーヴィルくん!?」


 なんかこう、思ってた引き剥がし方と違う!

 というかわたしのことを普段からどんな目で見ているんですか!?


「チッ、既にそこまでの関係とは! この場は譲ってやるッス。首洗って待ってろよー!」

「望むところだカント、いやケントだっけ?」

「テッドだよっ! 姐さんこいつ性格悪いッスよ!?」


 いやあのわたし、ちょっとそれどころじゃないので。衝撃の告白だったというか、あの、冗談なんですよね? わたしはあまりのインパクトに顔を赤面させていた。

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