43 Q.これデートじゃないですか?
俺は先生と郊外を歩いていた。これはいわゆるデートというやつではないだろうか。違っていても勝手にデートということにします。年の差はまあ、ちょっと頭の隅に追い出して。
ウンコの神にはしばらく黙っているようにと厳命してある。少しでも口を開かれたらせっかくのムードが台無しだ。
俺はなんて幸せ者なんだろう。ココガ村にいたときには全く想像できなかったことだ。
糞喰いというふたつ名を、誇らしいものとして受け取ることができるだなんて。過去の俺に聞かせても、絶対に信じやしなかっただろう。やっべ涙出てきた。
「なっ、なにかありましたイーヴィルくん!? どこか痛いところでも……」
「いや違うんです。ホント俺、恵まれてるなあって」
俺は笑った。それはもう満面の笑みで。涙がこぼれちゃったのは少し減点かもだけど。
なんでここまで来れたかった考えると、まあ正直受け入れがたいけどウンコの神のおかげなんだよな。魔物の群れや骸骨騎士と戦う力をくれたのはあいつだし。オルトロスの行動予測も、あいつがウンコからいろんな情報を得られたからできたことだ。
ありがとなウンコの神、それはそれとしてケツから出入りしないようにしてくれ。出そうなのがウンコなのかウンコの神なのか出る瞬間までわかんねえんだよ。毎回ウンコ漏らしたかと冷や汗かいてんだよ俺は。
「それにしても先生、なんでいきなり郊外を見て回りたいってことになったんです?」
「えっ。そ、それはですね。ちょっとふたりきりでで話したいことがありましてですね」
ほほう。ふたりきりで話したいことときましたか。
「……………………えっと」
少し先生が顔を背けてもじもじしている。これは………………いやわかんねえや。先生が俺に対してもじもじする理由なんてわからん。
「キララさんと話し合って決めたことなんですが、実はスウォール全域にトイレを設置することになりまして!」
「えっ、なんでですか? すごく気になります俺!」
「で、でしょう!? もとはと言えば、君が郊外でトイレを設置して回ったと耳にしたことが始まりなんですよ!」
さては本題じゃないなこれ。俺は気付かないふりをした。
「まず、多くの家庭や建築物にトイレはありません。領主の邸宅とかならそれなりのがあるんですけどね、それ以外は壺か桶の中にしたら路上にポイ、が基本です。捨てるにしてもこの街のようにゴミとして燃やされるか、埋められるかですね」
「まあ、村でもそういうのはありましたね。共用トイレ作ったのに使わない人。それが普通だからって」
「普通だからと言ってそれが変革しない理由にはなりません。このよろしくない衛生環境を改善し、さらに並行して教育水準も引き上げていくのですっ」
先生は手のひらをグーにして高く掲げた。それにしても教育水準、ときましたか。流石先生、なかなかに話が壮大である。
「気づいていないかもしれませんが、ウンコの神様の信徒になると学力が向上します。かくいうわたしもいくらか能力向上しました」
「へ、へえー。そんな効果もあったんですねえ」
……俺だけじゃなかったんだ。まあそんなこともあるか。俺はなんだか寂しいような優越感をはがされたような気分になってしまった。
「ですが、率直に信徒になれといっても忌避感がある人もいるでしょう。なので、トイレを使わせるだけでも学力に変化が確認できないかと協会の職員の方たちに協力してもらったところ――」
「頭がよくなった、ということですか」
「そうなんですよ、キララさんが頭抱えてました。いろんな意味で」
でも全域に設置するとなると郊外のギャングたちも下手に知恵をつけてしまうんじゃ、と口にしかけたが脳髄がストップをかけた。だからこそ先生はギャングたちをまとめて制圧したんだ。オルトロスの件が片付いた後も首輪をつけておくために。
すべてが計算の内、なるほど天才か。
「……………………その、ですね」
なんて思っていたら、また先生がもじもじし始めた。次が本題かな?
「堆肥場も、焼却場の隣に作ることになりました。ココガ村より大きい規模で建設予定なのです!」
うん、これも本題じゃねえな。話を逸らしましたよってばっちり顔に書いてある。ここまで顔に出やすい人だとは思っていなかった。
「ここの人口、比較にならないくらい多いですもんね。作った堆肥は農場に使われるんですか?」
「その予定です。協会を通じて他の支部にもこの方式が提案されるそうですから、じきにウンコの神様の信徒は倍々に増えて、信徒の祈りでイーヴィルくんが強くなって八方よしですね!」
「人々の祈りで強くなるっていえば聞こえはいいですけど、祈りっていうかウンコですからね」
俺はアハハと笑った。品のない笑いではあるが、どうか目こぼししてほしいものだ。
しかし冒険者協会の支部を通じて全国でトイレと堆肥場の敷設を、ね。ウンコの神が狂喜乱舞する姿が見えるようだ。




