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40 糞喰い再び

 オルトロス討伐作戦まで残り8日。オルトロスとの正面戦闘が現実味を帯びてくると同時に問題になったのが、オルトロスはいつ仕掛けてくるのか、であった。


 そもそも子どもが捕らわれたことを察知しているのか。どのあたりで潜伏しているのか。こちらが準備を終える前に仕掛けてくるとしたらいつか。

 わずかな情報を繋ぎ合わせて作戦を立てる副支部長室では、デスクの上に置かれた地図に何度もインクが走ったあとや取り消し線が引かれていた。


 そんな情報の坩堝において、俺はある一点において大活躍していた。実を言えば、俺ではなくウンコの神が。

 俺の前にある小机には、木の板に載せられたウンコの小片がある。斥候たちが採取してきたもので、木の板には見つかった場所が記載されたメモが置かれていた。

 木の板の上のウンコをウンコの神が次々に口に入れては吟味する。


「これはオークのウンコだなァ。これはカミナリオオカミ、そしてこれが――オルトロスのものだァ。3日前、栄養状態が回復しつつある。65%といったところか。ここからここまではゴブリンのものだな」


 それを聞いた職員さんが、素早く地図に情報を書き込む。ウンコの神は、会ったことのある生き物であれば、食べたウンコから様々な情報を得られるらしい。スウォールの郊外からさらに離れた林や山に落ちていたウンコを拾ってきてもらっては、ウンコの神が味見をしていく。ここ数日はそんなサイクルが続いている。


 始まりは、斥候役の冒険者が持ち帰ってきたウンコだった。その冒険者はウンコの見分けがつくわけではなかったが、そのウンコの中にゴブリンやカミナリオオカミ、オオツノヒツジの骨が混在していることに気づいた。このような捕食をする魔物はスウォールの近辺にはいない。ということで副支部長室に運ばれてきたウンコは、ウンコの神のでしゃばりによってオルトロスのそれだと判明した。


 さらにウンコが出た日――つまりオルトロスがいつどこにいたかがわかる――や栄養状態――万全になるまであとどのくらいか――まで解析できることから、斥候役にはウンコの採取までもが任務に加わった。


 なんでも足跡やほかの痕跡からの捜索は難航していたようで、新たな糸口となったウンコの神は一躍この作戦の要となった。俺としては副支部長室ではなく別室でやった方がいいんじゃないかと提案したが、わざわざ別室を用意して伝令を増やす手間を考慮に入れると、匂いを我慢すればいいだけだから却下とのことだった。


 かくして糞喰いの異名は復活した。ココガ村でつけられた蔑称とは違って、今回はマジでウンコ喰ってるから言い逃れの余地がない。食ってるのはあくまでウンコの神だけど、周りからすれば使い魔の功績も使い手の功績なんだとか。そんな関係でもないのだが、否定するだけ疲れるのでスルーした。


「神様、早く全部食えって。たぶんまた届くから」

「できるならゆっくり味わいたいのだが?」

「あのな、人間って臭いのに晒され続けれてるとメンタル病むの。周り見ろって、鼻つまんで作業している人もいるだろ?」


 ウンコはそこにあるだけでも精神を汚す。あるべき場所にない汚物はまごうことなき毒なのだ。

 そんなことを思っていると、ドアがノックもなしに開け放たれた。ドアを開けたのは伝令役を買って出てくれている髭の立派な冒険者だ。俺みたいなぽっと出の冒険者相手にもフレンドリーに接してくれる、世話焼きな男だった。名前は確かガントだ。


「糞喰い、ベテラン組が戻った。確度の高いウンコから持ってこさせるから準備しろ」

「こっちは大丈夫です。……それはそれとして、がんとさん。そのあだ名何とかなりません?」

「いいあだ名じゃないのは同感だが、冒険者にとって二つ名がもらえるのは栄誉だってことだけ覚えとけ。この件が片付いたら、バンバン指名が来るぞ。吾輩みたいにな!」


 ニヤケ顔の先輩に俺は顔を顰めて返した。


「物好きですねその人たち」

「二つ名ってのはそういうことなんだよ。なんとなくで付けられるんじゃない。支部をまたいでも通用する、他の奴にはできない使い道があるってことだ」


 ガントさんはそう言い残して副支部長室を後にした。俺は嬉しいような嬉しくないような気持ちになった。やはり評価されるのはウンコの神の特異性であって、本質的には俺ではないのだから。

 だからといって、それがやる気をなくしたり手を抜いたりする理由にもならない。俺は頬を手のひらで叩いて気合を入れなおした。


「神様、あんただけが頼りだ。頑張ってくれ」

「よいよい、献上品を際限なく奉じられた程度で倒れる超越神ではないわ。存分に我が威光に縋るがよい」


 糞喰いが求められているというのなら、その期待に応えてみせよう。その名を侮蔑ではなく、称賛として俺が受け入れられるように。

 そんなことを考えていたら、またもや部屋の扉がバンと開かれた。また違う冒険者だ。彼は息を荒げて副支部長室に足を踏み入れた。


「――誰か、当時のオルトロスを知ってる奴ァいないか!? 発見報告だ。姿を見たやつがいるぞ、照会させろ!」

「見つけた個体の特徴は!?」

「右目と左足に古傷だ、性別はメスに違ぇねえ」

「……ビンゴだ。ボクは覚えてるぞ、支部長がオルトロスに刻んだ一撃! あれはたしかにその部位を貫いていた!」


 副支部長室が湧いた。10年前スウォールを襲った厄災は、確かに帰還していたのだ。

 

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