34 報酬
俺は先生に頭を下げた。俺の身を気遣っての発言だったろうに、俺はそれを蹴ったのだから。
「すみません先生、俺はまだこの街に残ります。戦いを止めることはできなくても、郊外の被害は減らしたいんです」
「わかりました。でもその代わり、できる限りわたしから離れないようにしてください。不測の事態に備えるためにも、これだけは譲れません」
先生は不服ながらもそれを呑み込んだ顔でそう口にした。見れば、杖を握る腕に力がこもっている。
無謀を語る俺を今にも止めたいだろうに、先生はそれに付き合う道を選んでくれた。この信頼は裏切るわけにはいかない。こういう時、お礼は惜しんではいけないだろう。
「……ありがとうございます。全部片付いたら、俺にできることなら何でもします!」
「なな、何でも、ですか」
「はい、二言はありません。何でもやりますよ!」
「何でも、なんでも、なんでも……?」
先生が目に見えて動揺した。そうか、先生は選択肢がいっぱいあるとついつい悩んでしまうタイプなのか。別に今決めなくてもいいと思うのだが、先生はうんうんと唸ってブツブツ呟き始めた。
そして俺のへそ辺りを指でなぞると、先生は恐ろしい思い付きを口にした。
「欲を言うなら内臓が見たいんですよね。何か新しい臓器とかあれば最高なんですけど。どう見ても肛門から出てますもんね、神様」
「え」
「新しいスペースが体内にできていないと不自然ですもんね。うわあどうしよう、新発見の臓器にどんな名前つけちゃおっかな……ぶつぶつ」
「その、先生?」
「なんと、こやつ本性はマッドサイエンティストであったか」
猟奇的が過ぎる。自分で言い出しておいて嫌だと拒否するのはかっこ悪いが、俺死にませんかねそれ。
あとウンコの神は黙ってろ、もしかしなくてもそれ悪口だろ。
正気に戻ったらしい先生は顔を赤らめながら慌てて手をバタバタと振った。
「あ、いや、流石にやりませんよ!? あくまでできればナカが見たいなーって話で……!」
「お、俺の中身が、目当て」
学者らしいというか、不思議をそのまま放置しない一途さというか。それにしたってどうあがいても渡せないものが先生が切実に求める品だと知り、俺は覚悟を決めた。
ごめんユーリ、俺の旅はここまでみたいだ。
「かくなるうえは、この件が片付いたら腹を掻っ捌いてでも……!」
「違います違います! そりゃまあできたら最高ですけど、そのためにイーヴィルくんが傷つくのはNGですっ」
先生、それ弁明になってなくないですか。できたら最高ってやっぱり俺の内臓が欲しいってことですよね。どうしよう、何を代わりにあげたら俺の臓器の代用になるんだ!?
ふたりであたふたしていると、階段を下りてくるキララさんが見えた。彼女はため息でもつきそうな顔をしてこちらを向いた。
「何をしてるんだ浪漫バカ。聞こえたぞ、こいつの内臓が何だって?」
「あっキララさん、これはですね。とても魅力的な提案をされてしまったせいで引くに引けなくなったと言いますか」
「キンカクロン丘の発掘調査に推薦しといてやる、お前の報酬はそれでいいだろ。ガキから取り立てるんじゃねえよ」
「いいんですか!? やったー!」
喜びの余り、先生が諸手を上げて盛大に飛び跳ねた。動作だけ見るなら小さな子供である。
階段を降りきったキララさんは、やっぱりこれでで釣れたかと満足げな顔をしていた。
「ええと、そのキンなんとか丘ってそんなすごい場所なんですか?」
「ええ、2000年前の地層に今よりも発達した技術を持つ都市の残骸が発見されたのです。それがキンカクロン丘、浪漫が眠る地! そろそろ発掘調査が行われるとは聞いていましたが、キララさんが枠を勝ち取っているとは!」
「まさに使い時だろう? お前をこき使えるんなら安い買い物だ」
さてはキララさん、俺たちが街から出ようとしたらこれを餌に引き戻すつもりだったか。
準備がいいというかなんというか。先生のツボを完全に把握しているようだ。付き合いの長さを感じさせるやり取りだった。




