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32 決戦に備えて

 俺と支部長は牢から出され、今度は壁内の協会支部に連れ込まれた。ここに戻るのはまだ日数がかかるはずだったが、キララさんが作戦会議だと言って福祉部長室に強引に入れられた。


 福祉部長室には名うてらしい冒険者たちや先生がいた。なんとそこにはアーリャもいた。外壁の警報を聞いたキララさんが裏で手を回して、警備隊たちに彼女を壁内の協会に連れてこさせたらしい。ただ、アーリャの確保を担当した警備兵から「なんですかあのじゃじゃ馬は」との苦情が届いたとのこと。さもありなん。


 また、キララさんがリーシャさんの姉であること、そして10年前に呪いをオルトロスにかけられたせいで子供のような身体になっていることを聞き、俺はオルトロスが残した爪痕の深さを知った。

 オルトロスは街を破壊し人命を奪っただけでなく、残された人々のつながりや未来さえ好き勝手に弄んでいたのだ。俺の奥歯がギリギリと音を立てた。


「対オルトロス緊急作戦が協会に通達された。我々はこれより領主の命に従い、次期領主リーシャ・スウォールの指揮下に入る」


 キララさんがたばこ片手にソファーに深く座って、もう片方の手にはリーシャさんから受け取ったらしい書類を手に、嫌そうな顔でそう口にした。キララさんはリーシャさんに嫌がらせを受けているんですよ、と先生が補足するように口にした。なるほど、今回の作戦でも嫌がらせを受けるかもしれないと。


「キララ、組織のトップがそんな姿勢を見せるべきではない」

「ならお前がやれよ。実はまだ部屋は片づけてないんだ、今からでも会議室を支部長室に変えるか?」

「……え。もしかして支部長って、もともと()()()の支部長だったんです?」

「そうだ。あたしが副支部長なのはまあ、こいつの椅子に座る気にならなかったし、誰かを座らせるつもりもなかったんでな」


 アーリャと俺はあんぐりと口を開けた。他の冒険者も似たような反応だったが、何人かはやはりそういうことかと頷いている。さてはここの古株か。


「キララ。刻一刻と決戦が近づいているんだ、無駄に使える時間はない」

「はいはい。じゃあ説明な。決行は10日後。幼体のオルトロスを拷問し、親オルトロスを郊外におびき寄せる。これが作戦だ」


 呆れたような口調でキララさんは書類を読み上げていた。斧を担いだ冒険者が訝しげに手を上げる。


「具体的な戦法は? まさか策もなしに突っ込めと?」

「外壁の上に砲台があるだろ。冒険者は集中砲火で弱った後に突っ込め、だとさ。」

「それじゃ建物とか、関係ない人まで巻き込まれるじゃない!」


 アーリャが反論した。冒険者たちも頷いていた。有効な手段のようには聞こえるが、郊外の人の暮らしと命を何だと思っているんだ。そりゃ俺だって怖い目にあわされたけど、そこまでしていいわけないだろう。それにタイミングが違えば、冒険者たちも砲弾の餌食となってしまう。


「戦力が足りないでしょう。厳しいことを言うなら、この街の警備隊の皆さんには荷が重すぎるかと」

「リーシャ曰く、オルトロスを倒すためにこの10日の内に各地の実力者がやって来る、とのことだ。……まあ確かにオルトロスのネームバリューに惹かれるやつはいるだろうがなあ」

「まだいない戦力を当てにしているのか。やはりケビンがいなければ、あいつには穴だらけの作戦しか立てられんようだ」


 キララさんと支部長の2人は落胆を隠さずに言葉を交わした。

 俺にも分かる。この作戦は無茶苦茶だ。前線で戦うことになる人たちの命を何だと思っているんだ。あのリーシャっていう女、憎しみのあまり周りにあるものすべてが駒か何かにしか見えていないんじゃないだろうか。


「壁の外のことなんて何も考えてないっていうの? おかしいでしょそんなの……!」


 アーリャは怒りに任せて地団太を踏んでいた。支部長はそれを目にしながら、何も言えないでいた。

 俺は支部長を見つめた。彼もまた、本質は復讐鬼に過ぎないのだろうか。己の全てと周りの全てを薪にしてまで断罪の剣を握り続ける修羅だというのか。

 俺は、支部長がそうであってほしくないと思った。だって、あの人がアーリャに向けていた気持ちは、間違いなく親心とでもいうべきものだったろうから。

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