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31 取り調べ

 俺と支部長は街の警備隊に捕まり、壁内の牢の中でふたりで事情聴取を受けていた。


 しかもこの街の領主の娘とやらが直々に、である。俺は裏があると見た。

 牢の前に現れた金髪の女性、リーシャ・スウォールは矢継ぎ早に俺たちに質問を浴びせた。遠回しな罵倒らしいものがいくつも支部長に飛んでいたが、そのどれもがスルーされていた。その度にピキリと音を立てて顔面に青筋が立っていたのを俺は見逃さなかった。


 そしてとうとう彼女はストレートに悪口を言ってきた。悪口というより、処刑宣告だったが。拘束中に支部長の身体を調べられることはなかったが、彼女は支部長がオルトロスの呪いのせいで魔物の身体になっていることを知っていたのだ。


「あなたの身体、魔物なんですってね。役立たずにはふさわしい結末ですわ、処刑はいつがよろしくて?」

「君は相変わらず馬鹿だなリーシャ。復讐心に燃えた使い潰せる駒を暖炉にでもくべるつもりか? ケビンのいない今の警備隊にオルトロスの相手をさせても、墓石の注文が増えるだけだろうに。私情を優先して空回りするのは君の十八番だ」


 君が大金をつぎ込んだあの外壁が壊れないといいんだが、とつぶやく支部長。途端にリーシャさんの青筋が増えた。支部長としては素朴に戦力比較をしているにすぎないのだろうが、それは嫌味もいいところだろう。


「オレ達の意見は一致している。10年前逃がしたオルトロスを今度こそ討伐する。そして、やつが残したあらゆる呪いを消す。夫を、ケビンを救いたいならオレに手を貸せ」

「手を貸せ、ときましたか。立場が逆ではなくて?」

「いいことを教えてやる。今のオレは呪いのおかげで生きながらえているに過ぎない。ケビンとオレとでは事情が違う。オルトロスを殺せば、オレも死ぬ」


 その言葉を受けて、リーシャさんは時が止まったように動きを止めた。俺としても最悪の予想が当たってしまったことで、心臓を針で刺されたようなショックを受けた。


 そしてリーシャさんは堰を切ったように声をあげた。それまでの上品なふるまいとは反対にある、はしたなく、豪快で、無遠慮で、吹っ切れたような、気品のない軽薄な笑い声だった。

 もしかしたらこの人、こっちが素だったりするのかな。今のところ蚊帳の外な俺はそんなことを考えていた。


「フフ、フ。それならいいですわ。 最前線でお望み通り使い潰してやりましょう!」

「交渉成立だな。やる気のお前を見れてオレも嬉しく思う」

「あなたは食い殺された冒険者たちの仇をとって、尊厳ある死を迎える」

「お前はケビンの呪いを解くカギを手に入れ、幸せな生活を取り戻す」

「交渉は成立ですわね」

「成立しないわけがない。オレたちはどちらも、憎悪に燃える薪なのだから」


 ああ、俺がふたりの間に入れない理由が分かった。割って入ってはいけない理由は明確だった。俺に話が飛んでこないのは当たり前のことだった。


 これは復讐譚だ。大切なものを奪われた者が復讐鬼となって、簒奪者(オルトロス)に裁きを与える物語だ。何も奪われていない俺が、ぬけぬけと足を踏み入れていい舞台ではなかった。


 俺は端役だ。少なくとも、この演目においては。

 絶望を飲み干しては失ったものを数え、憤怒に身を焦がしては復讐の機会を待ち望む。そんな尋常ならざる思いを燃やし続けていることが、この舞台の登板資格だった。

 オーディションは10年前。幕はずっと上がっていた。いつか幕が下りることを切望していた者たちにしか、共有できない世界なのだ。

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