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30 なぜ幼きオルトロスは負けたのか

 なんか、勝てちゃった。


 うれしいんだけど拍子抜けというか、俺の新技を披露するまでもなく、支部長が全部ほぼひとりでやっつけてしまっていた。ウンコの神が話が違うぞと文句をたれているが、今回に関してはちょっとばかり同感である。

俺は恐る恐る支部長に問いかけた。これが10年前スウォールを恐怖のどん底に陥れた、支部長に呪いをかけた恐るべき魔物だというのか。


「支部長、これが10年前の……?」

「……いや違う、これはオルトロスの幼体だ。オレに呪いをかけたやつとは別の個体だな。だがむしろ好都合と言える」


 なるほど、だからこんなに小さいのか。10年前の個体はどれほどの大きさだったのかと尋ねると、10メートルほどだと返された。

 俺の想像の倍だった。それが成体だと仮定すると、こいつの弱さにも納得がいく。いや、決して弱くはなかった。黒い吐息にはわずかに触れるだけで身体が重くなる力があったし、前足から繰り出される蹴撃には軽々と俺や支部長を吹き飛ばす力があった。それをねじ伏せるほどに、支部長の姿勢が鬼気迫るものだった。


 俺は地面に倒れ伏した幼いオルトロスを見下ろした。こいつは俺たちと戦うまでどこで過ごしていたのだろう。支部長が言うにはマフィアかチンピラのアジトを根城にしていたのだろう、との推測だった。


「そうだイーヴィル、言い忘れていたのだが」

「何をです?」

「スウォールの領主は、10年前惨劇を繰り返さないようある装置を外壁に導入したそうだ。一定量の呪いを検出して鳴る警報をな」


 俺はまさかと思って耳を澄ました。ウー、ウー、と唸るサイレンがかすかに聞こえる。


「こいつを入れる檻を探す手間が省けたな。すぐにも警備隊がここに来るぞ」


 俺たちも重要参考人として連行されるのでは?    

 別に悪いことはしていないのですぐに解放されるだろうけれど、アーリャをひとりにしてしまうのは少し心配だ。というか今も寂しがっているかもしれない。俺としてもアーリャを優先してあげてほしいという気持ちが大きい。


「あの、支部長。ところでこのオルトロスを生け捕りにしたのはどうしてなんです?」

「餌にする」

「え」


 それはつまり、豚か何かの餌に? それはあんまりじゃないだろうか。

 と思った俺だが、即座にその考えを修正した。これが子供だと言うなら親がいる。そして子供は往々にして――親の宝だ。


「これの親は10年前の個体である可能性が高いはずだ。奴らはナワバリを持たないが、家族単位で独自のルートに沿って狩場を変えているしい。つまり、戻ってきたということだ」


 ミシリ、と支部長がこぶしをきつく握りしめる音が響いた。それは怒りか、それとも歓喜か。俺には区別ができなかった。


「……子どもの悲鳴はさぞ効くだろう。罠だと気づいていても飛び出さずにはいられないほどにな」


 ああ。復讐に燃える男が手段を選ばないなんてことは、察してしかるべきだろうに。

 俺は幼いオルトロスから目をそらした。お前はなんで親から離れたりしたんだ。ずっと親の隣にいたなら、こんなことにもならなかったろうに。

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