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28 死に様は自分で

 ウンコの神が支部長と顔を付き合わせた。俺としてはいつ暴言を吐くか気が気でない。

 冷静なところもあると思ったらすぐ脱線するんだよな。


「お前はウンコを出す魔物ではあるまい。食べたものはすべて吸収し、己の身体とする生態だ。違うかァ?」

「そうだな、オレは魔物だ。お前がイーヴィルのために警戒していることを悪くは思わない。むしろイーヴィルは会って数日のオレを信用しすぎなぐらいだ」


 俺はむっとした。それは支部長の人柄がいいからだ。ウンコの神と違って手放しに尊敬できるくらいに。相変わらず見た目はおどろおどろしいけど。


「ウンコを出さぬ輩はすべて余の敵である。が、お前だけは例外としてやる。魔物の身体となっても、人間としての心を保っている男よ」

「そうか、それはありがたいな」

「ゆえに聞こう。()()()()()()()。決めたか? なんなら余自ら手を下してやらんでもない」


 ウンコの神は支部長の死について問いかけた。精神が魔物のそれになってしまう前に命を絶つか否か。それは支部長にとって、明日明後日にでも来るかもしれないものなのだろう。だからこそ、死と向き合う覚悟ができているかこいつは問いかけたのだ。


「一番いいのは10年前の狩り残し(オルトロス)を討って死ぬことだが、まあそうはいかないだろうな。――最大限譲歩して、あと半年だな。孤独に最期を迎えるさ」


 支部長は、半年以内にその生を終えると口にした。


「その意気やよし。名を聞こう、男よ。お前にはその価値がある」

「バズー。バズー・ガッツバーグだ。もう死んだ男の名だがな……そういえば、アーリャにも教えたことはなかったか」

「え、早く教えてやってくださいね。ただでさえ俺の方が先に知ったことで怒ってきそうなのに」

「だな」


 俺も支部長の名前を心に刻み込んだ。でもバズーさんって呼ぶのは慣れないな。やっぱり俺は支部長って呼ぼう。


 ところで何か忘れているような、と記憶をたどったところで、郊外から爆発音のようなものが響いてきた。1キロメートルは離れた距離だ。爆発した建物からは黒い霧のようなものが吹きだし、近くにあるものをゆっくりと呑み込んでいく。

 そしてその霧は確実にこちらに近づいてきていた。中に何かいる、と俺の直観が告げた。


 そうだ、挑発のウンコ! しばし待てとか言っておいて、まさか今さら効果が出始めたのか。

 でもどうして郊外から魔物が向かってきてるんだ。野菜農家のおじいさんのときは、近くの山から下りてきていたのに。郊外とはいえ魔物の巣ができるほど無法地帯じゃないだろう。もしかして、チンピラかマフィアが魔物を匿ってたのか? それなら一応筋は通るかもしれないが、何のために?


「支部長、あの黒い霧何か知ってます? 先生が貸してくれた本には載ってなかったので」

「――()()()()()()

「え、はい?」

「あの霧、あの漆黒、オレが見間違えるはずもない!……来るぞイーヴィル、最後の特訓だ!」


 支部長が取り乱すのを見るのは、これが初めてだった。いや違う、取り乱しているんじゃない。

 歓喜に沸いている。喜悦にあふれている。復讐に渇いている。支部長はそれ以上俺に何も言わないまま《炎刃》を抜いた。


「感謝するぞ、ウンコの神よ! ――オレに、死に場所を与えてくれるとは」

「勘違いするな、狙ってやったものではない。なにより我がしもべの活躍の場だ、見せ場を奪うことのないよう努めよ。アレは我がしもべにめがけてやって来るはずだァ」


 大地をかすかに揺らす足音。狼のような外見。黒い毛並み、双頭から吐き出される黒い霧。いつの間にか目視できる距離にまでオルトロスは近づいていた。


 俺は唾を呑んだ。10年前、スウォールを襲った厄災にして支部長に呪いをかけた存在。それは近づくにつれ、だんだんとその巨躯をあらわして――こない。なんだか思っていたよりも小さい。てっきり地面から耳の先までで5メートルくらいの大きさはあると思っていたのだが、俺の背丈と比べてもなお低かった。


 俺は拍子抜けした。なんか弱そうだな。俺一人でも勝てそうじゃないか。

 そして腑抜けた思考に一喝を入れた。油断なんてしてたら一瞬でやられる。

 かくして舞台の幕は上がった。焔の剣がひらめいて、火蓋は切って落とされた。


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