26 切り札
特訓の最中、支部長が面白いことを言い出した。模擬戦の最中のことだった。俺は空中浮遊を解除してから《変身》を解いて、地面に降り立った。
「イーヴィル。カミナリオオカミを呼び寄せたあのウンコだが。カミナリオオカミだけを狙ってできるか?」
「え? わかんないです。神様、できる?」
確かに、狙って特定の魔物を呼び寄せられるなら、魔物討伐の依頼とか簡単にこなせそうだ。準備万端なところに魔物を誘い込めるっていうことだし。
ウンコの神は鼻息を荒くして答えた。
「できるとも。何を疑うことがある、我がしもべよ」
「すいません支部長、できないみたいです。こいつ今見栄張りました」
「なっ何をいうか我がしもべよ!」
ウンコの神との付き合いも短くない。ウソというか、100%真実を言っているわけじゃないときの声色はなんとなく把握した。完全にできないというわけではないが、完璧な再現は難しいのだろう。
強い魔物を呼び寄せるとか言っていたから、必ずしもカミナリオオカミが来てくれるというわけじゃないんだろう。たまたまあのとき挑発のウンコの効果範囲内にいたのがカミナリオオカミということに違いない。
「ウンコの神に質問だ、挑発のウンコ以外に特別なウンコは出せないのか?」
「出せるぞォ。逆に鎮静化させることもできる。アロマフレグランスだァ!」
「何言ってるか相変わらずわからんけど過言だろ」
「興味深いな。他には?」
支部長は《変身》しているときに出せるウンコのバリエーションについて注視しているようだ。
でも戦っている最中に隙を生んでまでやることだろうか。俺は首をひねった。
俺の手札はウンコからの派生のみ。自分で言うのもなんだが気分が悪い。攻撃面は矢をまき散らすような《苦悶の咆哮》と速度は遅いが破壊力はある一発砲弾《天使の沈黙》の2つ。あと、《全能神権限限定解放・魑魅魍魎駆逐砲》とかいう熱光線。
あと移動に使えるのが、オナラと似た成分を燃やして飛んでいるという空中浮遊。支部長は何も言わないが臭かったりしないかなこれ。
……異臭をまき散らす移動手段か。空を飛べるというのは魅力的だが、空にいたところで使える手札が少ない、というのが今の俺の結論だ。弾をばらまくだけで決定打に欠ける。要するにもっと技が欲しいのだが、ウンコの神は首を横に振るばかりだ。なんとみみっちい神だろう。俺は何度目かの失望をウンコの神に感じた。『余に頼りたいのか頼りたくないのかどっちなのだしもべよ』頼りたくねえに決まってんじゃん。『は、反抗期……!』誰が反抗期だ!
できるなら支部長の《炎刃》みたいな技が欲しいんだけどなあ。俺の場合燃えてるのは手じゃなくて足だし――
「ん? んん??」
――足から出さなくたってもいいんじゃないか? 俺は閃いた。
「なあ神様、足から出して空飛んでるあれ、手からも出せたりしないか!?」
「出せるぞォ。だが間違えても自分の身体に向けるなよ、そこそこ熱いのでなァ」
「はいはい、妙なところでおせっかいなことで。《変身》!」
俺はその場で《変身》し、手のひらを燃焼させるイメージを膨らませた。俺は両の掌を前方に向け、先程までの模擬戦では足元に向けていたエネルギーを、前に放つことに意識を切り替える。
万が一の事故が怖いので、腕は水平より上に。先に誰も何もいないことを確認して、さらに集中を深めていく。参考にするのは支部長の《炎刃》だ。腕の先からまっすぐに、煌々と燃える剣のように。
飛び回るためのものではなく、焼き切るための炎。刀身は細く強靭に、こめる熱は烈火のごとく。
「お、お! できた!」
すぐに結果は出た。手のひらから噴出する蒼い炎。焔火は辺りを照らし、大地に影を落とした。その先端はわずかに黄色を帯びて揺れ動き、勢いはすさまじく――反動に耐え切れなかった俺は尻餅をついたのち後頭部を強打した。ぶつかった衝撃で《変身》は解けた。
今後の課題は……威力調節、かな? 俺の意識は闇に落ちた。




