24 商工会
スウォールでは、商人組合、工匠ギルド、冒険者協会の代表者が集まって街の方針を決める月に一度の会議がある。
それぞれから一文字ずつとって、その会議の名を商工会と呼ぶ。
その商工会に、わたしとキララさんはもちろん協会側の代表として出席していた。
とはいえこの街の工匠たちはほとんどが商人たちのお抱えなので、この会議は三つ巴というよりは二項対立で、二項対立というよりも協会いじめだ。工匠ギルドの代表は出席すらしていない。
10年前、突如街を襲ったオルトロスの襲来によって街は半壊。多くの冒険者たちが立ち向かい命を散らしたものの、討伐は叶わず逃亡を許してしまった。
それ以来協会からはコンスタントに高難度の依頼――強力な魔物の討伐などをこなせる人材が減り、影響力を落としていった。
加えて協会の職員からも死傷者が出たことで業務効率も落ち、代わりの人材はより多く金を出せる商人たちに引き抜かれる。
「――そういう嫌がらせをいい加減やめろ。みみっちいぞ、リーシャ」
「はて、まったく身に覚えがありませんね。まあ確かに? 偶然にも私どもが採用した人材はどなたも冒険者協会で見習いをしておりましたが――」
そこに何の問題が? とこちらを見つめる冷たい視線。商人組合代表、そしてスウォールの領主の娘でもあるリーシャ・スウォールは、キララさんの非難をどこ吹く風と受け止めていた。
確かにルール上問題はない。こちらだって商人組合の見習いを引き抜くことは許されている。それが金銭的理由でできないというだけで。
リーシャさんは貴族だ。流行をいち早く察知し、ときに作り上げ、お抱えの商人たちに流通させる。
わたしはキララさんとリーシャさんを見比べた。あえて言うならふたりはとても似ている。
それもそのはず、彼女たちは姉妹だ。キララさんの方が姉である。キララさんは今は勘当されているから貴族ではない。
「お姉様、前にもまして縮みました? オルトロスの呪いお辛いことでしょうね」
「お前の思い人よりマシさ。人間大のガマガエルのまま10年戻らないんだったか?」
キララさんにかかっている呪いは若年化の呪いだ。年々彼女の肉体は若返っていって、この若年化に終わりはないと予測されている。つまり、死ぬのだ。同じくオルトロスに呪いを受けたリーシャさんの夫と比べてマシなんてことはない。
とはいえオルトロスの襲撃後、スウォールの復興を指揮したリーシャさんが徹底したのは、以前まで建っていた外壁を厚く高くすることだった。もうこれ以上、この街を壊す魔物が入らないようにするために。
――壁の中の治安のために、郊外の復興を送らせてまで。よそ者やガラの悪い連中がたむろするきっかけを、隙を作ったのは、間違いなくこの人なのだ。
「何を言われようが私が冒険者協会に譲歩するなんてありえません。夫を最前線に立たせたのはあなたたちなのですから」
「冒険者も協会の職員も山ほど死んだ。10年たっても補填ができない領主様の器を疑うって話だ。パパによろしく伝えとけよ」
議論は平行線のまま、商工会はいつものように解散の時間を迎えた。わたしは協会への帰路で、10年前この街を襲った厄災について思い返していた。わたしはオルトロスがいたその時にはいなかったものの、受けた被害を聞いて何かできることはないかとスウォールに足を運んだのだ。
崩れた外壁。燃え上がる家々。ガレキに押しつぶされた人々。子どもたちの泣き叫ぶ声。たった一匹の魔物に蹂躙されたという悪夢に呆然自失とした冒険者たち。
呪鎧血狼の異名を持つ、呪いをまき散らしては人を呑み食らう双頭の化け物。それは魔物の分類のうち、伝承級に位置する。
多くの冒険者が討伐を夢見て、夢のまま終わるモノ。古の勇者の歌物語の中では、酒を飲んで酔っ払った隙に首を刎ねられた愛嬌のある敵役。
現実はそれほど甘くはない。あれが残した爪痕は、今も人々を酷く苦しめ続けている。




