18 かくしごと
カミナリオオカミの死骸から売れるものは剥ぎ取って、支部長の後ろについて市場で売り払ってから協会まで帰る道中、俺と支部長は全く言葉を交わさなかった。ウンコの神が支部長に人間じゃないだろうと口にしてから、ずっとこの調子だ。ウンコの神は力尽きたのか俺の身体で眠りについた。できればそのまま永眠しておいてくれ。
野菜の籠を両手に、俺はウンコの神の口の悪さに辟易していた。元を辿れば俺があいつの誘いに乗ったのが悪いのだし、切り出すのは俺からの方がいいだろう。
「えっと、あの鎧のこと。最初に伝えてなくて、すみませんでした」
「謝らなくていい。頼りたくなかったか、使いたくなかったのだろう?」
「っ、なんでわかるんですか!?」
心が読めるのかこの人。支部長は俺の懸念を言い当てた。人生経験が豊富とか、そういうやつだろうか。
「なんとなくだ。できないのではなく、できればしたくない。最初に聞いたときそういう顔をしていた。事情があるやつの顔だ。いつか大事を起こすやつかもしれんとは思っていた」
支部長は黒革帽子を深くかぶって、「まさか2日連続でとは思わなかったが」と付け加えて、彼は穏やかに笑った。
子どものやんちゃを許すような声色だった。迷惑をかけたのはこっちだっていうのに。申し訳なさと罪悪感が雪だるま式に山積みになっていく。
「打ち明けなかったのは、心の距離が生まれてしまうことを嫌ってか?」
「そう、ですね。支部長たちを、ちゃんと信頼できていませんでした」
「信頼していない、というだけでは収まらない。言い方は悪くなるが、お前はリスクを避けて、オレの人となりを勝手に決めつけて行動したんだ。オレは秘密を受け止められない存在だ、とな」
「そ、そんな――」
そんなことない、と口にしようとした俺を振り向いた支部長は右手で牽制した。
視線が交錯する。俺は冷静になってその場でうつむいた。その通りじゃないか。俺は支部長をそういう目で見ていた。ウンコの神については事細かに言わなくてもいいか、と誠実さを贄に平穏を望んでいた。
「秘密を隠すとは、秘密がバレるとはまさにこういうことだ。お前はこの先、同じ過ちを繰り返さないようにお前自身に向き合え。お前の中にある甘えと弱さを飼いならせ。己を見つめ続けるんだ。できるな?」
支部長は真面目な口調になってそう口にした。いつもと変わらず血走った眼は、俺の将来さえも案じていた。この件を糧として立ち上がれと言ってくれた。
甘えと弱さは、きっと完全に心の中からなくすことはできない。それを消し去るのは、心の余裕を切り捨てることになるからだ。そこに残るのは人間性の消えた人形だ。
だからこそ支部長は、「飼いならせ」と口にしたのだろう。いらないものだと切り捨てるのではなく、ずっと抱えてそれでも生きていくために。俺は己の不甲斐なさに涙を浮かべながら全力で返事をした。
「……はいっ!」
「いい返事だ――さて。ここまで説教した身で、オレがお前に隠し事をしていては本末転倒だ。そうだな?」
「え、まあそうかもですけど」
支部長の秘密、ときたか。キララさん関係の何かだろうか。支部長は哀愁のこもった声で口を開いた。
「……オレが人間じゃない、か。どうやって気づいたんだろうな、アレは」
「――はい?」
俺は間の抜けた声を出した。俺たちはいつの間にか協会の前にいた。ここまでの道のりはまるで一瞬の出来事のようで。俺は、野菜を持っていた籠をポトリと落としてしまった。




