17 燃える刃
1匹目。迫る牙が鎧越しに俺の右腕を挟んだ。首に噛みつこうとするのを防ごうとしてのことだった。ビリビリと牙から流し込まれる電流が俺の動きを麻痺させる。余裕があったら絶縁しといてくれよな神様。
2匹目。3匹目。噛まれたままの右腕を振り回して弾き飛ばす。
4匹目からは、俺の体勢を崩すために突進を仕掛けてきた。止めても、殴っても、振り払っても、絶え間なく押し寄せる波のような進撃に、俺は尻餅をついていた。
まずい。のしかかられたら起き上がれないまま攻撃されて、変身が解ける前にやられかねない。噛まれても痛くないが、電撃が意外ときつい。ここはイチかバチか、変身が解けてでも――
「このっ《苦悶の――」
「待て、しもべよ! 少しの間動くな!」
ウンコの神の待ての言葉に身体が硬直した。それが妥当な指示なのか、誤った判断なのではないかと逡巡する数秒の間に、カミナリオオカミたちは顎を大きく上げて俺に迫る。
この時の俺は気付いていなかった。俺に迫る影がもう一つあったことに。
「《炎刃》」
――紅い炎を宿した剣が、カミナリオオカミたちを一閃した。
二撃目はない。俺は起き上がって、剣の持ち主に目をやった。
包帯でぐるぐる巻きになっている全身。それを包み込むような黒コートに、黒革帽子。真っ赤に燃える剣は右手に握られていた。という持ち手ごと燃えている。熱くないんだろうかあれ。
「支部長、来てくれたんですね!」
「その声、やはりイーヴィルか。その鎧についてはあとで聞かせてもらうぞ」
「はい、黙っててすいませんでした!」
心強い味方が現れたところで、形勢は逆転。カミナリオオカミ何するものぞ、支部長が炎の剣で牽制し俺が叩く。コンビネーションというよりは支部長の戦い方がうまく、弱い駒を潰そうとした個体をうまくさばき、群れを切り崩していった。
最後の1匹を片付けたところで、ちょうど変身が解けた。支部長は少し辺りを警戒すると、剣に宿っていた炎を消した。辺りには、敗者であるカミナリオオカミの血がまき散らされている。
俺は先ほどまでピンチであったにもかかわらず、限りなくワクワクしていた。燃える剣、なんてかっこいいんだ。俺も使えるようになれるかなあ、と浮かんだ気分になったのもつかの間、俺は支部長に謝罪した。
「俺がおじいさんを危険にさらしました、すみませんでした!」
「察するに、お前に取りついていたというものが鎧のアレか。カミナリオオカミを呼び寄せるとは、いったい何をした?」
「ええと、ウンコをしたんです。そいつ曰く、魔物を呼び寄せるウンコなんだとか」
「……ウンコか。話を変えよう。なぜ、そんなことをした?」
責めるような視線が俺に突き刺さる。俺の心が痛んだ。当然のことである。支部長が助けに入ってくれたから切り抜けられたものの、あのままだったらどうなっていたことか。
「俺がおじいさんになんかできないかって聞いたら、畑に生き物を近づけないためにできることがあるって言われたんです。それに乗っかったら、こうなりました」
「魔物の血には確かにそれより弱い魔物を避ける力がある。だがお前が倒しきれない魔物を呼ぶとは、腹に一物ある存在らしいな」
「なにおう、あれ程度余のしもべならばお前の助けがなくとも殲滅できていたわァ! ――人間ではないくせに、人間のフリなどしおって片腹痛い!」
聞き捨てならないと俺から出てきたウンコの神様と、支部長の視線が激しくぶつかった。
おい神様、助けてもらった立場でなんてこと言うんだよ。俺は頭を抱えた。
第一、支部長が人間じゃなかったら何だっていうんだ。まさか魔物が人間に化けているっていうんじゃないだろうな。




