16 呼び寄せた獣たち
ウンコの神め、何が野生動物を遠ざけるためのウンコだ。結果的に狼たちを呼びよせるとか、ウンコの神様は狼より格下ってか?
「違うぞ、魔物には余のウンコが効かぬ。ゆえに余が先ほどしたのは挑発のウンコ、魔物を呼び寄せるものだ。その魔物どもを倒し、その血の匂いを畑の周囲の土地に染み込ませれば、他の魔物どもも寄せ付けることはない」
強すぎると効かぬがな、と付け加えてウンコの神は計画の全容を話した。俺は心の中で悪態をついた。ちょっと遅すぎやしませんかね。最初から話してくれたら俺も心の準備とかできたんだけど。
「伝えていれば、万一のことを考えて首を縦には振らない。お前はそういう男であろうに」
「ああ、だろうな。だから感謝はしないぞウンコの神様。変身が切れる前に狼どもを倒さなきゃいけないんだからな!」
「言っておくが、前の戦いのように魔力に余裕があるわけではない。空も飛ぶな。何も打つな。徒手空拳のみで戦うようになァ」
「マジかよ」
「撃ってもいいが、次の瞬間変身が解けるぞォ」
追いつめられ具合に頭痛がした。手加減を強要されている感覚だ。ちらりと後方を見る。おじいさんはちゃんと逃げたみたいだ。支部長にまで話が伝わるといいんだけど。
そして、足音が徐々に近づいてきている。草をかき分けてこちらに走ってくる足音だ。
ピコンピコンと音を立てる鎧が、いっそう俺の緊張感を駆り立てた。もしタイムリミットに間に合わなかったらと思うと背筋が凍る。
十数秒後、俺を取り囲むようにしてカミナリオオカミの群れが現れた。黒い体毛に、紋様のように身体に走るネイビーの線。パチパチと口を開けながら放電しているのは威嚇のしぐさだ。先生が持っていた魔物大全という本に載っていた情報である。
放電範囲は狭く1メートル前後。獲物に噛みつくとそこから電気を流し込み麻痺させ、弱らせてから仕留める。
カミナリオオカミというのはその外見からつけられた名前である。魔物ではあるが、先生の話じゃ山の縄張りで過ごしていて、滅多に人里には姿を現さないはずだ。よほどウンコにご執心らしい。
ジリジリと囲いが狭まっていく。俺はどこから包囲を崩すべきか決めあぐねていた。前方か後方か、それともほかに道があるのか。
……魔物のウンコはいい肥料になったりするのかな。俺は命に危機にあってどうでもいいことを考えていた。思考逃避していたともいう。
「――おい神様、あと何分だ?」
「3分のままだ。余の厚意で延長してやったぞ」
「あっそ、ありがとな」
そんな弱気を振り払うように、俺はウンコの神に残り時間を問いかけた。
俺が絶望するしないは勝手だ。でも俺がここで尻尾まいて逃げたとして、俺はそれをユーリに誇れるか? 助けようとしたものから一度でも逃げたら、俺の誇りもユーリへの誓いも、全部汚れちまうだろうが!
「アドバイスはあるか、あったら手短に教えろ!」
「リーダーを狙え。囲いの円の外側で、滅多に動かない個体がそれだ。今回は余が見つけてやろう――正面右側、尾がひときわ太い奥のやつだ」
なるほど、司令塔から崩せと。俺はアドバイス通りに尾が太いカミナリオオカミに肉薄して殴り飛ばした。リーダーの沈黙、途端に群れが動揺した。指示を待つべきか今すぐ俺を倒すかで群れ全体が揺れている。
――のは一瞬だけだった。十数匹のカミナリオオカミは一斉にとびかかってきた。作戦も何もなしにただ俺を食い荒らすことにしたらしい。




