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14 畑の老人

 俺は支部長に昨日言われたように、野菜作りに励むおじいさんのお手伝いに来ていた。

 おじいさんは白髪まみれで腰は曲がっていて、言葉を選ばず言うとこれで仕事ができているのか心配になる人だった。


 おじいさんは何故か俺のことが気に入ったようで、夕飯をどう用意しようか悩んでいた俺に、売り物にならないという野菜を小さな籠に山盛りになるほどくれた。どう考えても雑草狩りに見合っていない報酬だったが、俺は押し切られてしまった。


 俺は何度も頭を下げた。若者がそう頭を下げるもんじゃないとおじいさんは言った。俺って毎日誰かに助けられてばっかりだなあ。俺は畑の外に腰を下ろして途方に暮れた。


「そう悲しむでない。まだ若いんじゃ、大人に頼っていいし、失敗なんていくらでもしていいんじゃよ」

「でも俺、昨日も支部長に迷惑かけちゃったんですよ。へこむなあ」


 俺は籠を両手にため息をついた。日暮れまではまだ少し時間がある。雑草狩りもとうに終わって、他に何かできることはないかと聞いたが、今日は十分頑張ってもらったと断られてしまったのだ。


「儂には息子が負ってなあ。野菜作りなんて土臭いことをやってられるか、と家を出て行ってしまったんじゃ。その時、儂の息子は今のお前さんより若かった」

「ああ、確か支部長もそんなことを言ってました。だから俺が適任だとかなんとか」


 おじいさんの顔色に影が差すと、それが見間違いだったかのように朗らかな笑顔に戻った。


「……そうか、あいつが。お前さんも旅に出ているんじゃろう? 野菜作りなどつまらないことをさせてしまって悪いのお」

「えー、そんなことないですよ。ここの野菜けっこう質がいいし、おいしいし。おじいさん結構ベテランだよね。あ、ですよね!」


 しまった、敬語が崩れた。俺は口を覆った。だがおじいさんはクスリと笑った。


「構わん構わん、そういう素の話し方でいいとも。……しかしおいしかったか、儂の野菜が。というか違いがわかるのか?」

「一昨日食べたスープに入ってたよ。市場で近くで見ただけでも、匂いがちょっと違うなって。アーリャ先輩が買ってきた野菜とは味も段違いだったし」


 今朝会ったときはヨボヨボのおじいさんだなと思ったけれど、この人が仕事に向ける熱量は半端じゃない。知らない野菜ばかりでどんなことを頑張っているのかまでは把握しきれなかったが、我が子を愛して育てるような態度だった。そりゃおいしくなるよな。

 ……自分の息子を、育てきれなかった分の愛が注ぎ込まれているんだもんな。


 にしても残念だ。ここの畑が堆肥をつかったら、もっとおいしい野菜になるのに。

 まあ堆肥を作るのはそれなりに手間がいるし、今でさえ忙しいおじいさんを過労で死なせるわけにはいかないだろう。


「なんか出来ねえかなあ、俺」

「できるとも、余のしもべよ!」


 尻から声がした。おじいさんが声の主はどこかとあたりを見渡す。

 そのまま無関係な場所を見ていてほしい。特に俺からいったん目を話してもらえると助かる。


「……そっか、誰かが俺の作ったトイレでウンコしたのか。でもあれ、祈ってないとダメなんじゃ?」

「余はすべてのウンコを統べる神。奉納されずとも半径数キロメートル範囲のウンコから力を得られるのだ」

「ここ、ココガ村より人口多いからウンコも多いだろ。なんでパワーダウンしてたんだよ」

「適当に転がっているか、最終的に燃やされているからな。腹にいれたパンが捨てられていたものだったり、胃の中で発火しては腹を痛めるだろう?」


 例としてははわかる気がするが、それをウンコに当てはめるのはどうなのか。俺は怪訝に思った。

 じゃあ今トイレにあるウンコが焼却場に持っていかれたら、またコイツは力を失うのか。まあ、別にいっか。俺としてはアーリャと支部長の掃除が楽になればいいんだし。


「今こいつ、どこから出てきたんじゃ?」


 俺の尻からです。聞いたところで引かれる未来しか見えない回答は呑み込んで、うるさいが害はない存在だということをおじいさんに伝えた。

 ウンコの神は俺のおせっかいのせいで復活した。トイレで誰かがウンコしただけで力が戻るとか、ゴキブリよりも生き汚いな。

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