13 副支部長の憂鬱
先生視点です。
スウォールは街と郊外、もしくは壁内と壁外といったふうに区分されている。
冒険者にとって、壁内の仕事に比べて壁外の仕事が危険なのは、マフィア崩れやチンピラがグループを形成し、独自の支配圏を展開しているとこが理由だ。
その気はなくともどこかのグループに肩入れさせるような仕事だったり、恨みを買うことを知らず知らずのうちにさせられるなど、依頼一つに裏を取る必要が出てくる。
イーヴィルくんは大丈夫だろうか、変なことに巻き込まれていないかと頭を悩ませていると、キララさんから呆れたような声がかけられた。
いけない、今はキララさんの執務室で仕事中でした。
「そんなにあのガキが心配か? ならお前も行くか、郊外にさ」
「遠慮します。イーヴィルくんは自立がしたいようなので。ここで手を貸すのはよくないかと」
「わっかんないねぇ。何がそんなに魅力的なのさ、あの青臭いガキのさ」
魅力、というよりも興味本位だ。私でも知らない神。その正体が気になってしょうがない。
私はニコニコと笑って声を出した。
「わたし、あの子に取り付いてる自称超越神の信徒になったんです。そしたら面白いことがわかりまして」
「……は?」
狂ったか、と言いたげなキララさんの視線。彼女は少し考え込むと、狂うようなタマじゃないか、とつぶやいて観念したように姿勢をこちらに傾けた。
「聞かせろ」
「経緯は省略して話していいですか?」
「そこもだ、当たり前だろう」
「では失礼して――」
わたしはココガ村で起こったことをまず話した。この時点でキララさんは半信半旗だった。
わたしは続けて、今わたしの身に起こっていることについて説明した。
正確に言えば、イーヴィルくんやユーリくんにも起こっていたことだ。
「加護を受けると、簡単な算術と単純な読み書きにおいて思考力が増強されます。イーヴィルくんが、教育を誰に受けたこともないのにこの2つができる事が証明です」
村を出る前やスウォールの街に向かう最中の荷馬車の中で何度もさりげなく確認したことだ。
彼は自分の名前を書くことができたし、足し算や引き算を素早くこなした。学校で教わることがあったならまだしも、何も教わってもいないのにその能力があるのは、異常だ。
「わたしにとっては検算が早くなる程度のものですけどね。この街に来てからは、あの子の作ったトイレに入っていないせいか、効力が薄れている気がしますけど」
「ここじゃ、もよおしたら桶にひねり出してポイだからな。しかしあの新人、なんてもの飼ってやがる」
教育の概念が壊れるぞ、とキララさんは顔をしかめた。あの顔は、深く考えないようにしながらも続きが気になっている顔だ。わたしはよく知っている。
「わたしの予想ではですね、あれは先史文明の遺物なんですよ! 2000年前の地層から出土した、今の技術でも実現不可能なオーパーツが今も眠っていて――」
わたしはわたしの推論を語った。任されていた語って述べてしゃべり尽くした。
キララさんは途中でグロッキーになっていたが、わたしはお構い無しにノドを酷使した。
ああ、もっと知りたい。もっと調べたい。この妄想の正誤を検証して、真実に迫りたい。
わたしは運命に感謝した。解き明かせない謎以上に素敵なものはない。
浪漫。ああ、なんて素敵な言葉だろう。それは理想を求める気高い心意気、退屈を吹き飛ばす万能薬。
頬が紅潮して赤くなった。これはきっと恋と言っても差し支えない衝動だ。
この浪漫馬鹿め、と机に突っ伏したキララさんが気の抜けた声を上げた。それはわたしにとって、最高の褒め言葉だった。




