07 気遣い
「オレのことが信用できない、か。新人にしてはいい警戒心の高さだな。気に入った」
わりと失礼なことを口にした自覚はあるが、黒コートの男は上機嫌な口ぶりで俺を褒めた。
「いえ、警戒とかじゃなくて、キララさんの気遣いを無視できないな、と」
「キララがお前に? さては神話オタクか魔術具オタクの紹介か?」
「いえ、俺への気遣いじゃなくて、あなたへの気遣いです。俺の予想が間違っていなければ、ですけと」
「……なぜ、そう考えた」
黒コートの男の顔には言葉に表しきれないような困惑が浮かんでいた。俺としても今さっき繋がった推論だ。
正直、間違っているかもと自分でも思う。
でも間違えたとして恥をかくのは俺だけだ。俺一人の恥で済むのなら言ってしまうのがいいだろう。
ユーリだって多分こうする。あいつほどのおせっかいでなければ、俺があの子屋から出て行くなんて今はあり得なかっただろう。
「あなたも冒険者ですよね。キララさんのの新人いびりを知っていて、その対処法にまで精通している」
「間違っていない、続けろ」
「郊外の仕事は面倒で危険だと、あなたは言った。あなたが日々処理しているのもそういう仕事だ、あなたは郊外にいる冒険者なんだから」
黒コートの男は頷きだけを返した。
ここまでは普通に考えてみれば何となく分かることだ。ここから先は推測と妄想が入り混じる。嘲笑をもらうとしたらここからだ。
「あなたは、キララ副支部長と仲が良かった。もしくは交流があった。違いますか?」
「…………」
長めの沈黙。もしかしなくても不正解? 冷や汗が頬を流れた。
「…………否定は、しない」
俺は心の中でガッツポーズを決めた。最大の不確定要素は排除した。
「郊外で仕事をしたがる冒険者も少ないとあなたは言った。あなたは、そんな郊外の仕事をほぼひとりで抱えているんじゃありませんか?」
黒コートの男は図星を突かれたような顔をした。これも正解か。
「危険な仕事をひとりで繰り返していれば、いつか限界が来ます。副支部長はそれを案じて、新人にあなたを助けに行かせているんじゃありませんか!?」
「むう……」
顔を下に向けて考え込む黒コートの男。自分で言っておいて何だが、助けるという表現は少し合わないかもしれない。仕事にまだ慣れていない新人を連れていたら、仕事が減るとは限らないのだし。
だが黒コートの男は納得してくれたらしい。長年の謎が解けたとでも言いたげな顔をしていた。
「今さら聞くのもなんだが。お前、オレが怖くないのか? 人並みの風貌じゃないだろう」
「確かに怖いです、けど。魔物みたいに顔が怖い人と、魔物は別じゃないですか。一緒にしちゃ失礼でしょ」
「……気が変わった、支部まで案内してやる。ついてこい」
「あっはい、ありがとうございます!」
黒コートの男は踵を返して、何事もなかったかのように歩き出した。
背が高く大股なせいでとても早足に見えるが、これが常なのだろう。
俺は追いかけるように駆けだして『気をつけるのだぞ、我がしもべよ。お前の慧眼が看破したように、あれは人間ではない』
――なんでそんなこと言うんだよ、突然。
『この街には余の神殿がない、ゆえに伝えられる言葉も多くない。神殿を設置せよ、糞食いよ――』
それだけ言い残して、ウンコの神の気配は俺の中から消えた。今は眠りについているようだ。
旅に出てから今日これまで一言もしゃべらなかったくせに、どうしてこう余計な言葉を吐くんだ。
というか信じてやらないからな。適当なこと言いやがって。
俺は必死に表情を取り繕って、黒コートの男の背中を追いかけた。




