06 何はなくとも日は傾く
どうしよう、冒険者協会が見つからない。人に聞こうにもどんな人に聞けば教えてくれるのかがわからないし、すれ違う人は軒並み人相が悪い。タトゥーとか入れ墨とかメッチャ入れてる。下手に話しかけたら路地裏に連れ込まれそうだ。
だがいつまで手をこまねいていても事態は好転しない。どんなに怖い人だったとしても、次にすれ違った人に勇気を出して話しかけてみよう。
よし、そこの人!
「あの、すみません! 冒険者協会への道を聞きたいん、ですけ、ど……」
「……あ?」
全身を黒いコートで包み、カラスを思わせる先のとがった黒い革帽子。指先から顔面までは包帯でぐるぐる巻きになっている。ギョロリとこちらを除く青い目は、病人のように血走っていた。
もう人相が悪いとかいうレベルじゃない。そもそも人間なのかこの人。
「この道をまっすぐだ。三日月と狼の紋章はわかるな? 3階建ての建造物だ。見えればもう迷うまい。しかしその木箱、キララめ意地の悪いことをする。新人いびりは相変わらずか」
「……あれ?」
はあ、と吐き出されたため息の後にかすれたダミ声が言及したのは、支部への道筋とほかでもないキララ副支部長のことだった。もしかして協会に所属している人なのだろうか。人かどうかは怪しいが。
「その木箱、中を見るなと言われただろう?」
「もしかして、新人には定番のお仕事だったりします?」
「そうだ。その中にはお前の異動辞令が入っている。これから2週間、郊外の冒険者協会で働けという命令書だ。その間街中に戻ることは許されない、という条件付きでな」
「えっ」
「郊外には面倒な仕事、そして危険な仕事が多い。それを嫌って街中の支部でのみ依頼を受ける冒険者は少なくない。あふれる郊外の依頼解消のため、新人はまずここに回される。むしろ逆効果だろうにな」
黒コートの男はなおも俺に話を続けた。彼の声の中から憐みが聞こえたように感じたのはきっと気のせいじゃないだろう。彼の口調は、声質とは正反対に優しさがあった。
「だが解決策もある。木箱の中の命令書をなくしてしまえばいい。ここは治安が悪いからな、気づかないうちに盗まれたんだろう、とでも言えば追及はされない。日が暮れる前には街に戻れるはずだ。何だったらオレがその木箱を受け取って、お前はそのまま街に帰ればいい」
――日が暮れる前までには戻って来い。お仕事頑張れよ新人君。
関門の兵士さんの言葉がふと蘇った。あれはまさか、こういった事情を把握しての言葉だったのだろうか。
「戻った後、怒られませんかね?」
「お前に仕事を任せたのはキララだ。他のものが嘲弄することはあっても、キララがお前を責めることはあるまい。せいぜい数日無茶ぶりが続く程度、2週間の拘束に比べるべくもない」
俺は親切な黒コートの男に頭を下げた。これだけの情報を無償で受け取っておいて、それじゃバイバイなんて恩知らずにもほどがある。礼儀を尽くすのはタダでできるんだし、やっておいた方が後々特になりそうだ。
「――そうですか、いろいろ教えてくれてありがとうございます。それはそれとして、俺はきちんとこの箱を届けようと思います」
「何?」
黒コートの男の血走った瞳がクワッっと見開かれて、信じられないものを見るような目で俺を見つめた。迫力満点の表情を前に、俺は表情だけで人を殺せそうな人間っているんだなあと思った。




