04 即採用、即労働
俺の驚き具合もさることながら、キララという名前らしい幼女副支部長の驚きようもそれなりのものだった。不機嫌そうな顔のシワがもっと深くなったのだ。
先生が他人の冒険者登録を頼むというのは、それだけ珍しいことらしい。
「いいだろう、事情は聞かないでおいてやる。――おいそこの茶髪、名前は?」
「イーヴィルです」
「よしイーヴィル、あたしのこと小さいって思ったか?」
「まあ相対的に見ればどう見ても子ど痛った!?」
キララさんが近くにあったペンを手に取ったと思ったら俺に投げつけて、それは刺さるような速度で額にぶつかった。俺は悶えた。もちろん痛みで。
「それは禁句だ、覚えとけ」
「いや俺言ってないですよ!?」
「思うのも禁止だ、誰が好き好んでこんな姿してると思ってる!」
キララさんは怒鳴った。なんと、今の身体が好きではないらしい。
さて、と口にすると、テンションを戻したキララさんは鋭い視線を俺に向けた。品定めをするような目だった。
「そこのピンク髪に引っ付いてる理由は?」
「キララさん、イーヴィルくんではなく、わたしが同行させてもらっている立場でして――」
「先生には、旅をする上での知識と経験をいただいてます。先生がいなくちゃ、俺はこの街にもたどり着けませんでしたっ」
「旅の目的は?」
「勇者の剣を見つけることです。親友に託された夢なので」
俺は先生を制するように声を張り上げた。
俺だってわかってる。先生はウンコの神に興味があると言って俺と同行しているが、心優しい先生のことだ、旅に不慣れな俺が野垂れ死にすることのないように気遣ってくれたのだろう。一生頭が上がらないし足を向けて寝られない。
俺が唯一返せる物があるとすれば、先生が心配しなくてよくなるような一人前の旅人にいち早くなって、先生を自由にすることくらいだ。
俺の答えが気に入ったのか、副支部長は愉快そうに笑った。
「よく言った。大志はあるし、おんぶ抱っこになる気もないってか。度胸だけならあるみたいだな、採用で」
「そりゃどうも……あれ?」
めっちゃ軽いノリで採用されちゃったよ。いいんだこういうの。
「どうした茶髪、呆けたツラして」
「いやなんかこう、もっと試練的な何かあるんじゃないかって構えてたっていうか」
「テメエはピンク髪の紹介だからパスだ。やりたいってんなら用意してやらんでもないが?アタシ直々に試験官を務めてもいいぞ?」
「謹んで辞退させていただきます」
スラスラと拒否の意を伝える言葉が出てきたよ、ありがとうウンコの神。お前の知識がここまで役に立ったことないよ。
……いやなんでウンコの神が敬語堪能なんですかね。もしかしてホントに全能神とか超越神だったり? んなわけないか。
「というわけで早速仕事だ新米冒険者、郊外の支部にこれ届けろ」
俺がポンと副支部長から渡されたのは、縦、横、深さのどれも俺の肩幅に満たないほどの、三日月と狼の紋章が彫られた蓋つきの木箱だった。
重さはそこそこ。1時間くらいなら楽勝で持っていられるだろう。
「日が暮れるまでに持っていけ。――ただし、中は見るなよ?」
副支部長の試すような冷たい視線が俺を貫いた。途端に冷や汗が首筋を走り、重い木箱が重くなったように感じられた。
スウォールの街で託された、最初の仕事。それは、木箱とその中身を郊外の冒険者協会に届けるだけの簡単な仕事。どうしてか、一筋縄ではいかないような予感がしたのだ。




