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閑話 荷馬車の中で2

「では引き続き、魔物について私が教えられるだけのことを教えましょう」

「よろしくお願いします、先生」


 出してしまったものはしょうがない。俺はゲロをきれいに掃除して、再び先生の近くに座った。


「魔物は確かに人間を襲います。けれど、魔物じゃない狼だって人間を襲いますし、人間以外も魔物の被害にあいます。魔物は人間だけを食べて生きているわけではありません」


 そうなんですか、と俺は新事実に驚いた。もしすべての魔物が人間しか食べれないなら俺たちはもっと魔物の脅威にさらされていただろうから、なんとなく察してはいたが。しかしそうなるとなおさら、魔物と普通の生き物の違いが魔石以外にないことに頭が痛くなった。


「先ほど見せたオオツノヒツジですが、普通に草を食べます」

「でもやっぱり人間を食べたり……?」

「いいえ、()()()()()。害をなす存在だと見なされて、襲われたりはしますけどね」

「じゃあ身体はヒツジそのものなんですね。肉を消化できない、だから食べない……?」


 先生は「その通りです!」と大声で俺を褒めた。魔物ってとにかく人間を食べているイメージがあったけど、すべてがそういうわけじゃないらしい。そしてやっぱり褒められると嬉しい。


「生態はほとんど見たままと同じです。そして身体の中も。原種――普通の動物や生き物をそう呼んでいます――と魔物の区別をつける方法は魔石以外にないのか。世の学者たちは長きにわたってこの難問に挑戦しているのです」

 かくいうわたしもですね、と先生は笑って補足した。

 俺は情報量に圧倒された。俺はこれから何度魔物と普通の生き物を見間違えることになるのだろう。

 なんて考えていると、ふとこれまでの話に該当しない魔物がいたことに気が付いた。


「先生、スケルトンって魔物ですよね。あれ魔石どこにあるんです? 骨の中とか?」

「むむっ。いいですねえ、その洞察力! 確かにスケルトンには一見魔石がありません。魔物かどうか疑うのはいい視点です」


 先生はそう来たかと息巻いて興奮した顔になった。実際に見たことはないが、我が子が初めて言葉を話し始めた親の反応のような気がした。ここまでくると何だか恥ずかしさを覚える。

 スケルトンは骨だけの魔物だ。だが、わかりやすい位置に石がくっついていた覚えはない。骸骨騎士だってそうだ。


「それで、スケルトンですが――魔石は確認されていません。どこにもないんです。もしかしたら見えない場所にあるのでは、なんて言われていますけど。これはスケルトンだけが持つ特徴です」

「なのに魔物なんですか? 魔石があるのが魔物の証明なのに?」


 俺は眉をひそめた。先生が先ほど述べていた、魔物とそうでない生き物とを区別するのには魔石が唯一の判断基準だという話に反している。

 その考え方はもっともだ、とでも言いたげな様子で先生はうんうんとうなずいた。


「何事にも例外はつきものです。スケルトンを魔物ではない第三の分類として当てはめようという動きもありましたが、下火に終わっていました。新しい分類を作るより、スケルトンは魔石がない魔物だとして処理する方がわかりやすいですからね」

「悪い言い方しますけど、言い訳じゃありません? 思考を放棄しているというか」

「言い訳ですねえ。今の人類は、スケルトンがなぜ自立して動き、魔物のような振る舞いをするのか調べ上げられていないのです。いつかは理由も見つかるかもしれませんし、見つからないかもしれません」

「えー、なんかもやっとしますねえ」

「……もしかしたら、イーヴィルくんが解き明かしてしまうかもしれませんね?」

「待ってくださいよ。先生でもわからないことが、俺に分かるわけないじゃないですか」


 先生は俺に期待するような目つきでそう言った。先生は人をおだてるのが得意なことで。俺は顔を赤らめながら、過分な期待だと首を横に振った。

 俺の旅はあくまで勇者の剣を探すのが目的だ。そんな学術的探究のために村を出たわけじゃない。

 そういえばユーリは今頃何をしているんだろう。旅の仲間と一緒に楽しく村で生活できているだろうか。

 ちゃんと覚えておかなきゃな、俺の旅路は一方通行じゃないってこと。勇者の剣を探し終えたら、ココガ村に戻ってユーリに知らせてやるんだ。お前の夢は、実を結んだってさ。

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