閑話 荷馬車の中で
「第1回、魔物講義の時間ですよ〜!」
「いえ〜い!」
俺は拍手をした。よくわからんけどそうしたほうがいいんじゃないかと本能が告げたのだ。
先生は俺をとある街に連れて行こうとしているらしいのだが、荷馬車の中で何もすることがなく、ただ揺れに酔いつつ身を任せるのみ。はっきりいうと暇だった。
なので先生がこうやって話しかけてくれるのは大変ありがたい。マジ神。
「イーヴィルくんのノリがよくて、わたしとっても嬉しいです。では問題です、魔物ってなんでしょう?」
「なんかヤバくて人間を襲う生き物です」
「うーん55点! 危険性については理解できてますね、何よりです」
やった、先生に褒められたぜ。点数的には下の方でも、褒められる回数がその分増えたと思えばいい。大事なのは向上心と伸びしろだよ。
「魔物の体内には魔石というものがあります。水色の透明な結晶なんですけど、見たことありませんか?」
「あったかもなーって感じです。ウンコの神が魔物の死体という死体をバリバリ食べてたので、確認する暇もなくて」
「あ、なるほど。それでココガ村には魔石が転がっていなかったんですね。お金になるので、今度は回収しておきましょう」
俺はウンコの神を恨んだ。金になるものを何でそう見境なく食べられるんだ。
ウンコのことしか考えていないからか? だとしても石を食うな石を。胃やら腸やらに負担がかかりまくって良いウンコも出なくなるだろうに……いや、魔石を食べたらいいウンコが出るのかな。だとしたら辻褄が合うんだけど。
俺は思考を停止させた。答えが出たところで食べようなんてつもりはないし。
「話を戻して、これを見てください。何だと思いますか?」
先生は羊の絵を2枚取り出した。羊の毛は普通白いというのにどちらの毛も黒く、異質感を際立たせている。
「どっちも黒い羊ですね。さてはどっちかが魔物って感じですか? じゃあ俺は向かって右側の――」
「どっちも普通の羊です」
「んなっ」
そんなことがあるのか、と俺は視線で先生に抗議したが、先生はフルフルと首を横に振った。
先生はさらにもう1枚羊の絵を取り出した。今度はどこにでもいるような普通の羊だった。
「これは魔物です。名前はオオツノヒツジ」
「?」
先生はさらに絵を取り出した。カラス、ブチ猫、さらにリンゴ。どれもパッと見た限りでは何の変哲もない普通の生き物だ。というか最後のは果物だ。
「これ全部魔物です。メダマツツキにキンカドロボウ、リンゴガニですね」
「???」
「まあ、あくまで今挙げたのは誰しもが間違えるやつですね。魔物は必ずしも恐ろしい見た目をしているわけではありません、ということを教えるのによく使われる例です」
「じゃあ何が基準なんですか……?」
俺はげっそりとした表情を浮かべていた。何でもアリじゃないか、魔物。この分じゃ家の形をした魔物が出てきてもおかしくないんじゃないか? こう、入ってきた人間をパクッと食べちゃうカンジで。
「そこで魔石の話になるわけです。いいですか、魔石が先なんです。魔物とは、身体に魔石のある生き物全てを指すのです」
「いやいや、それって変じゃないですか? 魔石ができるかそうじゃないかで生き物が二分されてるってことじゃないですか。魔物じゃないやつと魔物で外見が似たものだってあるんですよね。さっき出してくれた例みたいに」
「ええ、そうですけど」
先生はきょとんとした顔で俺の疑問に答えた。俺は、背筋につららが差し込まれたかのような悪寒が走っていた。殺人鬼が隣にいたことに気づいたような、そんな焦燥感に駆られて。
「そんなの、誰かがわざと仕込みでもしなきゃ起こらないことじゃありませんか……!?」
生命の起源。あらゆる生命の祖先。そこに魔石はあったのか? 恐らく無かったろう。あったなら、どんな生命にも魔石ができるはずだ。そうでないということは、どこかのタイミングで魔石が生物の身体に入り込んだということになる。
「誰かが、いや何かが魔物を作った可能性があるんじゃおぶっ」
「すごい、すごいですよイーヴィルくん! こんな少ない材料でよく気づきました! やっぱりあなたは――」
俺は上下に揺さぶられていた。何故って先生に手を握られたまま上に下にと振り回されているからだ。
視界が高速で揺れるせいで吐いてしまいそうだ。
「――ゴホン、辛そうなのでやめますね。確かにそういう説もあります。誰も立証できていないのが玉に瑕ですけど、ってイーヴィルくん!?」
「おろろろろ」
俺は吐いた。荷馬車の揺れと先生の揺さぶりの合わせ技が俺の三半規管に深刻なダメージを与えたのだ。ごめんね隊商さんたち、馬車の中汚しちゃって。




