17 攻守交代
高熱の炉の中に叩き込まれたかと錯覚するほどの、燃えるような黄金のオーラの奔流。それが骸骨騎士を何重にも包み込んだ。
「ぐ、ギぃィ、あァアぁァ!?」
どうやらこれはただそこにあるだけで敵を痛めつける力を持っているらしく、漆黒の甲冑に包まれているはずの骸骨騎士や骸骨馬の内側からシュウシュウと骨が焼ける音、そして匂いが漂った。
骸骨騎士は胸をかきむしり、骸骨馬は膝を折った。やつらから口から苦しみを訴える声が出たのは、間違いなくこれが初めてだった。
「骨っころよ。余は貴様らを酷く恨んでいる。何故だかわかるか?」
「フ、スケルトンに恨みを語る、か……!」
ウンコの神が真剣そうなことを口にしたのも、これが多分初めてだ。鎧についた口でしゃべってくれねえかなとも思うが、助けてもらっている立場で偉そうなことは言えない。
そういえばスケルトンとは何か因縁みたいなものがあるみたいなこと言ってたっけ。ちょっと気にならんでもない。
「4000年前からそうだ、貴様らはウンコをしない。ゴブリンやオークでさえもしているというのにィ!」
「ハ? 貴様、何を……」
前言撤回。ごめん、コイツ頭のネジが外れているんだ。俺は心の中で骸骨騎士に詫びた。
どうにもこいつはウンコを基準にしてしか世の中を見られないらしい。なんともふざけた自称神だ。
さっきまで俺と骸骨騎士が真面目に戦っていたのを何だと思っているんだ。
「すべての生命は、他の生命に寄りかかって生きているのだ。わかるか? 植物が茂り、それを食む動物がいて、またそれを食べる動物がいる。そしてウンコをして、植物が大きく育つことを助ける。死骸もまた、他の命をはぐくむ肥料となる。人間もまたこの輪の中にいる。魔物でさえもだァ!」
盛大に大げさにポーズをとりながら、ウンコの神はそう熱弁した。人の身体を借りているという自覚はあるのだろうか。もし誰かに聞かれていたと思うと非常に恥ずかしいのだが。
「骨畜生どもよ、貴様らは何も生まない命だ。いや、命ですらない!」
「命ですらない、だと? ……それはっ、それだけは聞き捨てならなイ!」
黄金のオーラを受けて顎に損傷でも入ったのか、骸骨騎士の声は先ほどから乱れている。相棒であろう骸骨馬はウンコの神の力に足を折り地に伏せていた。主人を乗せて駆けることはもはや叶うまい。ふたりは既に満身創痍だった。
「ベガよ、コれが最後の突撃ト心得よ!」
「Brrrrr――!」
それでも奮い立った。主人の誇りのために。決して汚されたくはない一線のために。何度も従ってきた命令を、いつものように遂行するために。俺に彼らの過去は計り知れないが、そう見えた気がした。
ここまで彼らを連れてきた忠節と信頼に、俺は図らずも感動を覚えた。
骸骨馬は馬鎧を脱ぎ捨てた。一秒でも早く敵の下に主人を連れて行くために。
いかなる奇跡かそれとも魔術か、足場なき空中を踏みしめて。
闇色の妖気が骸骨騎士から再び燃え上がった。
俺と戦い始めたときと比べればとてもささやかなものであったが、それでも足骨が崩壊のさなかにある騎馬を支えるだけの力は残されていた。
決着はすぐそこまで迫っていた。それを担うのが俺ではないことが、何故か少し悲しかった。




