13 ウンコの神
ウンコの神とか言ったかこいつ。聞き間違いであってほしい、切実に。
待てよ、確か昨日の夜に先生は言ってたよな。俺がどうして堆肥の作り方をっているとかなんとか。
俺は確かひどくうろたえて、そんなのは誰でも知っているはずだと無礼にも先生に叫んだのだったか。
冷静になって考えてみれば、俺がひどく不自然なことを口にしていたのは自明の理だ。息の仕方は教わらずとも知っている。なぜなら息をしなければ人間は死ぬからだ。
だが堆肥を作らなかったところでせいぜい作物の実入りが少し悪くなる程度のこと。死には直結しない。命に直接かかわらないことを、誰にも教わることなく知っていることは間違いなく異常なことだ。
「ずっと俺の中にいたのか。……堆肥の作り方は、お前が?」
「おお気付いたか。そうだとも、余はわずかな知恵しか授けてやれなかったが、お前はきちんとものにして日々余の供物を作ることに励んでいたな。誇らしい限りだァ」
生まれたての俺に入ったという悪霊の正体は、ウンコの神だった。ならば話の筋が通る、かもしれない。
供物、という単語に思考が一瞬止まったが、毎日のように俺が作っているものと言えばひとつしかない。となると今頃、堆肥場に積みあがっている俺の汗と涙の結晶はこいつに押収されているわけだ。
「堆肥が供物かよ。『捧げろ』ってのはそういうことか」
「ウンコもまた供物だとも。熱心に供物を作るのはよいことだが、お前は余に全く奉納しなかった。おかげで力を取り戻すのに15年もかかったぞォ」
「次から普通のウンコでいいか?堆肥は畑にまくんだよ。お前に回せる余裕はないんだ」
「あーん? 普通のウンコとはなんだ普通のウンコとは。色、形、水分量、それらすべてが理想的なウンコは健康的な肉体、そして健常な精神からひねり出されるものだ。高みにして日常、量産型にして安寧の象徴。それをォ! お前は普通と罵るか余のしもべでありながらァ!」
「……めんど」
「聞き捨てならん、聞き捨てならんぞ!本来ならばお前は余の神言を世界に広め、全世界の人間に余をあがめさせ、余にウンコを捧げさせるために奔走する義務があるというのに――む」
俺の発言のどこが逆鱗に触れたのか、理想のウンコについて饒舌になって語り出したり、15年間生きてきて初耳のそして噴飯ものの俺の使命についてべらべらと唇を上下させるウンコの神は、何に気づいたのか視線を遠くに向け、急に押し黙った。
その沈黙に疑問を挟む間もなく、真冬のごとき冷気が辺りに舞い降りた。背骨の芯まで凍りつきそうな寒さに俺は身体を震わせた。全能神を自称する割には鎧の防寒仕様に気が回らなかったらしい。
「この冷気、スケルトンか。なんということだ、余と因縁深き奴等が元凶とは!」
「それって、確か骸骨の魔物だよな。そいつがいるだけで寒くなるってのか!?」
「強大なスケルトンであるほど、その周りから熱は奪われる。この襲撃の首謀者はそれなりにやるようだぞ、警戒せよ糞食い」
「一応言っとくけど、俺そのあだ名嫌いだから!」
「むぅ?良い称号ではないか、あの村人たちには一流のネーミングセンスがあるぞ」
さいですか。ウンコの神からすれば糞食いという悪口は相手を称える称号のように聞こえるらしい。頭が腐ってるんじゃないだろうかコイツ。
されはさておき、山のような数の魔物の群れ相手には手強いなど一度も口にしなかったウンコの神が、首謀者だというスケルトンには警戒しろなんて口にしたのは聞き逃せない。
俺はまだ村に残る魔物たちを片付けつつ、冷気の強まる先、つまりこの襲撃の元凶がいる場所へ全力で駆けた。




