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10 先生から見た超越神 

先生視点です。

『契約成立だ、わがしもべよ。お前に余の――超越神の加護をくれてやろう!』


 大仰で不遜な声が突然響くと共に、青い雷鳴がわたしの目の前に降り注いだ。イーヴィルの身体を容赦なく雷が突き抜けて破壊していく様を、わたしはただ見ていることしかできなかった。


 急に聞こえた、超越神を名乗る声。それはまさか、彼の命と引き換えにこの場に降臨しようとしているのだろうか。

 雷光に阻まれて顔を見ることもできないまま、無慈悲にも雷は彼の命を刈り取り続けている。


「いけないイーヴィルくん、今すぐ――!」

「大丈夫です、先生」


 心配の声に返される力のこもった彼の声。それはとても平坦で、どこか達観した音色をしていた。

 わたしはこれをよく知っている。死を覚悟した狼だ。明日の朝日を拝むことを度外視した命知らずの声だ。

 雷光が止まった。ようやく彼の顔を直視できる。


「俺は恩返しをするだけですから」


 そこにいたのは褐色鎧の男だった。砂漠に囲まれた、歴史ある国の古代王の金色面具に似たマスク。そしてスカラベを象った耳飾り。

 胸のあたりの大きく口を開けて威嚇する悪魔のような意匠のレリーフは、見る者に恐ろしさすら感じさせる。

 邪神の鎧。そう呼ぶのにぴったりな姿形だった。


「おい悪魔、俺に残った時間はあとどれだけだ?」

「望むだけ力を振るうがいい。帳尻はこちらが合わせるとも、我がしもべ。いや『糞食い』よ!」

「うわっ、そこでしゃべるのかよ!?」

「そして余は悪魔などではない。余は超越神である、復唱ォ!」

「んな暇はねえ、さっさと村の方に行かねえと!」

「ほう?ならば余に任せよ、お前に翼をくれてやる!」


 驚くべきことに、鎧の胸のレリーフが口のように動いて饒舌に言葉を発して会話を始めた。先程のようなぼんやりと響いてくるのではない、空気を揺らす声だった。


 彼はじっとしていられないとばかりに小屋の外へ走り出すと、噴出音のような何かを出して消えてしまった。

 どこに向かったのかすら把握できなかったが、わたしはイーヴィルが正義感のままに魔物を倒してくれるのではないかと期待していた。その代償が、どれほどのものかも知らないままに。


 ……?あたりに少し臭気が立ち込めている。まさか先ほどの噴出音はガス燃焼に似た――


 とまで考えて、先にユーリを癒すべきだと思い至った。残った魔力でユーリを治療しつつ、村人を山の方に避難誘導する。

 そしてイーヴィルが超越神の力とやらで魔物の群れを撃退する可能性に賭ける。もうそれしかわたしに打てる手立ては残されていなかった。


 ユーリを治療している最中、わたしは気付いた。あるはずのものがないことに。

 小屋に空いた穴から見える、イーヴィルがいつも仕事をしている場所。


 堆肥場に置いてあったはずの堆肥が、ごっそりと消えてなくなっているのだ。

 見間違いや記憶違いなどではない。ここ数日、彼はずっとここで堆肥を作っていたはずなのに。

 一体、どうして?

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