01 糞喰い
ちょっとふざけた話を書いてみよう。そんな気分で生まれた物語です。
「糞喰いだー!」
「ばっちいイーヴィルが来たぞー!」
村の男児たちが、木の桶を抱えて小屋から出てきた俺に気づいて、一目散に散っていった。
イチノ村には糞喰いと呼ばれる人間がいる。
それが俺、イーヴィルである。
野菜くず、家畜の骨、糞尿から堆肥を作って村に届けるのが仕事だ。
決してきれいとは言えない仕事場にいるもんだから、寝起きする小屋は村から遠く離れている。時々今日みたいに子どもたちがからかいにやってくる。
「邪魔すんなよガキども、うんこぶつけんぞー」
「ひー、にっげろー!」
「くっせー!」
一度だってうんこを食べたことなどない。いったい誰が思いついたのか、いつの間にかこのあだ名は村に浸透していた。迷惑な話である。
「糞喰いてめぇ、何でもっと早く来れねえんだ!?」
「他の人の家も行ってんだからしょうがないじゃん。順番だよ順番」
「うるせぇ!さっさと持ってけクソガキ!」
俺は腐ったパンを投げつけられた。
日課として、俺は村人の出すゴミを収集する。
大体燃やせば肥料になる。燃やさず堆肥場に入れることもある。
道端に捨ててくれていれば勝手に拾うのだが、さっきの爺さんはストレス発散のためかいつも俺にゴミをぶつける。何度伝えても改善されず結構困っている。
避けたらもっと怒るので、いつも渋々不動の姿勢を貫いている。
これが終わったら、共用の便所の掃除の時間だ。
……視線を感じる。
糞尿を入れる桶をいっぱいにしていく最中、誰かに見られているような感覚がした。
振り返るとそこには先生がいた。汚物の匂いなんて気にしていないかのような笑顔をしていた。
「お疲れ様です、イーヴィル君。今日も元気に頑張ってますね」
「先生こそお久しぶりです。前に会ったの、3ヶ月前くらいですかね?」
「だいたいそのくらいですね。村の人達も元気そうで良かったです」
ピンクの長髪でポニーテールの美人。それが先生だ。医学と魔術の心得があって、辺境を回っては病気に悩む人々を癒すという聖女のようなことをしている。着ている服は白衣というらしい。
していることもさながら、その精神も聖女のごとしだ。便所の掃除なんてしている俺にも平然と話しかけてくれている。
しかし名前は知らない。先生と呼べばそれで伝わるし。
「ところでイーヴィル君。この前相談してくれたことですけど、大丈夫そうですか?」
3ヶ月前、俺は村を訪れていた先生に診察してもらった。症状は、誰もそばにいないのに声が聞こえる、というものだった。その時は特に異常は見つからなかった。
「えっと、幻聴のことですよね。実はまだ続いてて……まあそのうち治りますよ」
先生がカッと目を見開いた。そして勢いよく近づいてくるものだから、俺は思わず後ずさった。
「本当ですか?それは大変です、診察しましょう」
「いやいや、先生に悪いですよ!」
「幻聴がそんなに続くなんておかしいです。呪いの可能性も考えなきゃいけません」
嘘でも治ったって言っておけばよかったかもしれない、と俺は後悔の念に襲われた。
先生が診てくれるのは大変嬉しいのだが、先生は大変美人なのでそれだけでも村の男たちの恨みを買ってしまうのだ。ただでさえ、俺は糞喰いと呼ばれて嫌われているし。
幻聴だって、そんな大したものじゃない。
捧げろ、とか聞こえる程度のものなんだし。