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恋愛発電  作者: みらいつりびと


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5/50

教室

 教室のわたしの席は窓側から数えて2列目、前から4番目だ。

 堀切くんは窓から3列目、前から2番目に座っている。

 教壇の方を向くと、自然に彼の後ろ姿を見ることができる。

 授業に退屈すると、わたしは教師や黒板から、堀切くんの華奢な背中へと視線を移す。

 彼は男らしいタイプではなくて、中性的な魅力を湛えている。

 その髪の毛は黒く艶々として、ショートカットの襟足には漫画のキャラクターみたいにシャギーが入っている。

 かっこいい。


 わたしは授業そっちのけで堀切くんの後ろ姿を眺めつづけた。

 彼が振り向くと、目が合って、わたしが熱く見つめているのがバレてしまう。

 そうなることを想像するだけで、心臓にぴったりと張り付いている発電ユニットが起動する。

 わたしは人並みはずれて発電量が多い。この程度で発電しているのはわたしだけかもしれない。


 堀切くんがあごに手を当てながら、窓の方を向いた。

 彼の端正な横顔が見えて、わたしの発電機が回転を速めた。

 ヴヴヴヴーンという発電音が骨伝導で聴こえる。


 発電してる。発電してる。堀切くんを見てわたしは発電している。

 意識すると、ますます心臓がドキドキして、発電機は回りつづける。

 彼はまだ窓を見ている。

 校庭で、体操服を着たどこかのクラスの人たちが、トラックの周りを走っている。

 彼はそれを見ているのだろうか。

 ランニングしているのは、女生徒たちだ。 

 それに気づいてわたしは少し機嫌を損ねたが、発電機は止まらなかった。


 わたしは美しい横顔を凝視しつづけた。

 彼が少しでも顔の向きを後ろに変えると、わたしが見つめているのがわかってしまうだろう。

 頭を動かさなくても、瞳の位置をきょろっと変えるだけで、知られてしまうかもしれない。

 わたしは緊張しているが、それを楽しんでもいた。

 発電できているのがうれしい。 


 堀切くんは窓から黒板へと向き直る前に、後ろに体をひねった。

 わたしと彼の目はしっかりと合ってしまった。

 彼は感情のない顔でわたしを2秒ほど見つめてから、数学の教師の方へと体の向きを変えた。

 その間、わたしは彼の視線をむさぼるように味わっていた。


 ヴヴヴヴヴヴヴ、ヴヴヴヴヴーン。

 ひゃああ、心臓が揺さぶられるほど、発電しちゃってるよお。


 彼が教室の前方を向いた後も、心臓の鼓動は早まったままで、興奮は簡単にはおさまらず、発電も停止しなかった。

 もうとっくに蓄電池はフルチャージしていると思う。

 この状態は発電ユニットへの過負荷になっていて、良くないと聞いたことがある。

 またナノマシン手術を受けて、体内蓄電池の容量を増やしてもらった方がいいかもしれない。

 はあ、もう止まってよ、わたしの発電機。


 落ち着こうと思って、教科書を見た。

 あー、顔が熱い。

 プラスチックの下敷きで顔を扇いだ。

 左隣の男の子がにやにやしている。

 一色くんだ。

 わたしが堀切くんで発電していることをわかっていて、面白がっているのだ。

 好きにしろ。

 わたしは一色くんのすけべな視線すら糧にして、発電できるのだ。


 右隣に座っている知多くんは、素知らぬ顔で、だるそうに黒板を見ている。

 わたしの発電に気づいていないのか、気づいていてもまったく関心がないのかはわからない。

 もし後者だったら、少し悲しい。

 知多くんは男らしいタイプの美男子で、わたしが好きな人のひとりだ。

 先週、サッカー部に入ったと、女の子たちの話を小耳に挟んで知った。


 知多くんのことを考えても、わたしは発電してしまう。

 学校にいるといつも発電しっぱなしで困る。

 高校の数学はむずかしい。勉強もしなくては。

 ちょっとは授業に集中しよう。

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