教室
教室のわたしの席は窓側から数えて2列目、前から4番目だ。
堀切くんは窓から3列目、前から2番目に座っている。
教壇の方を向くと、自然に彼の後ろ姿を見ることができる。
授業に退屈すると、わたしは教師や黒板から、堀切くんの華奢な背中へと視線を移す。
彼は男らしいタイプではなくて、中性的な魅力を湛えている。
その髪の毛は黒く艶々として、ショートカットの襟足には漫画のキャラクターみたいにシャギーが入っている。
かっこいい。
わたしは授業そっちのけで堀切くんの後ろ姿を眺めつづけた。
彼が振り向くと、目が合って、わたしが熱く見つめているのがバレてしまう。
そうなることを想像するだけで、心臓にぴったりと張り付いている発電ユニットが起動する。
わたしは人並みはずれて発電量が多い。この程度で発電しているのはわたしだけかもしれない。
堀切くんがあごに手を当てながら、窓の方を向いた。
彼の端正な横顔が見えて、わたしの発電機が回転を速めた。
ヴヴヴヴーンという発電音が骨伝導で聴こえる。
発電してる。発電してる。堀切くんを見てわたしは発電している。
意識すると、ますます心臓がドキドキして、発電機は回りつづける。
彼はまだ窓を見ている。
校庭で、体操服を着たどこかのクラスの人たちが、トラックの周りを走っている。
彼はそれを見ているのだろうか。
ランニングしているのは、女生徒たちだ。
それに気づいてわたしは少し機嫌を損ねたが、発電機は止まらなかった。
わたしは美しい横顔を凝視しつづけた。
彼が少しでも顔の向きを後ろに変えると、わたしが見つめているのがわかってしまうだろう。
頭を動かさなくても、瞳の位置をきょろっと変えるだけで、知られてしまうかもしれない。
わたしは緊張しているが、それを楽しんでもいた。
発電できているのがうれしい。
堀切くんは窓から黒板へと向き直る前に、後ろに体をひねった。
わたしと彼の目はしっかりと合ってしまった。
彼は感情のない顔でわたしを2秒ほど見つめてから、数学の教師の方へと体の向きを変えた。
その間、わたしは彼の視線をむさぼるように味わっていた。
ヴヴヴヴヴヴヴ、ヴヴヴヴヴーン。
ひゃああ、心臓が揺さぶられるほど、発電しちゃってるよお。
彼が教室の前方を向いた後も、心臓の鼓動は早まったままで、興奮は簡単にはおさまらず、発電も停止しなかった。
もうとっくに蓄電池はフルチャージしていると思う。
この状態は発電ユニットへの過負荷になっていて、良くないと聞いたことがある。
またナノマシン手術を受けて、体内蓄電池の容量を増やしてもらった方がいいかもしれない。
はあ、もう止まってよ、わたしの発電機。
落ち着こうと思って、教科書を見た。
あー、顔が熱い。
プラスチックの下敷きで顔を扇いだ。
左隣の男の子がにやにやしている。
一色くんだ。
わたしが堀切くんで発電していることをわかっていて、面白がっているのだ。
好きにしろ。
わたしは一色くんのすけべな視線すら糧にして、発電できるのだ。
右隣に座っている知多くんは、素知らぬ顔で、だるそうに黒板を見ている。
わたしの発電に気づいていないのか、気づいていてもまったく関心がないのかはわからない。
もし後者だったら、少し悲しい。
知多くんは男らしいタイプの美男子で、わたしが好きな人のひとりだ。
先週、サッカー部に入ったと、女の子たちの話を小耳に挟んで知った。
知多くんのことを考えても、わたしは発電してしまう。
学校にいるといつも発電しっぱなしで困る。
高校の数学はむずかしい。勉強もしなくては。
ちょっとは授業に集中しよう。




