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本道春翔
こんばんは
「やっと行ったか、」
春翔は正門に向かって歩いていく少女の背中を確認すると、踵を返し既にひと気のない教室に向かって歩き出した。何度も一緒に帰ることを誘ってくる新入生を笑顔で対応することに残っていた気力までも奪われた様で顔が死んでいた。
本心では一秒でも早く横になりたかった。運転手も敷地内で彼を待っていた。が、
帰りたくても帰れない理由が彼にはあった
「あのメガネ、いつ返しに来るんだよ...クソが」
朝、烏野美麗に渡した”屋上の鍵”。同じクラスだし、いくらでも渡す機会はあったはずだがまだ手元にない。しかも先ほど新入生と屋上で偶然会った時も出てこなかった。こちらが気が付いていないとでも思っているのかアイツ?
よって今この学園は屋上からなら誰でも侵入可能だ。生徒会長という役を任されている以上、帰れない。
教室には自分の持ち物を取りに来ただけだった。帰る前に一度職員室に寄って、事の始終を伝え明日、対応しようと考えたのだ。しかし
(ふざけんなよ)
机に鍵と『ごめんなさい』の一言メモが置かれていた。
一息つく時間はまだ彼にはやってこないようである。




