8話
誤字脱字がございましたら大変申し訳ございません。
学校が終わり急いで家に帰る。小説を書いている五楼は基本的に家にいる。術者としての仕事もあるため、自由が利く仕事がいいということで実体験などをアレンジして小説を書いている。以外に面白いことが少々納得出来ない。
「五楼ただいま帰りました」
仕事中は書斎にこもりっぱなしの五楼の部屋のふすまを開ける。私が来ることを予想していたのかキーボードをたたくのをやめ、私に視線を向けた。
「結萌、早かったね。お帰り。夢の正体を突き止めたのかい」
「誰の夢かは分かったわ」
朱千を口留めしても、主は五楼のため、報告をする。私に危険が及ぶ可能性があることは、最優先で守られている。
「浮かない顔だな」
ノートパソコンを閉じ、眼鏡を机の上に置いた。説明しなくても朱千が伝えているはずだが、私は膝の上に置いている手に力を入れる。悪夢を視た。夢喰いとしてなのか、身近な人だからか私の心は一つに決まっていた。
「学校の先生だった」
先生、と口にした瞬間五楼の目の奥が微かに光った。
「近しい者の夢は食べられない」
「人として接してくれた先生を助けたいの」
「助けるのか」
五楼の表情は私の答えを待っている。普通だったら私は手を出さないで、五楼に任せると思う。人間の側面の私を大切に想ってくれた『他人』。由利とは違う。私の事を考えてくれた。先生として生徒の指導をしているのかもしれないけど、私は嬉しかった。
「助けたいのは間違いなの?」
ある力を振るわないで、先祖返りと言われ、大切にされる必要がある。
五楼は珍しく引き下がらない私の対応がうれしいのか、笑顔になる。
「危険が及んだ場合俺が容赦なく叩く」
五楼は私の事になると手段を選ばない。
「結萌、一つだけ約束してくれ。ナイトメアの一族が関わってきたら、戦おうとせず、逃げてくれ」
「ナイトメア」
聞きなれない名前。本家に閉じ込められていた時に誰も教えてくれなかった。
「西洋の、悪夢を視せる一族。結萌は悪夢を払いたいと思っているが、ナイトメアの一族は悪夢で人を惑わす」
「約束を破ったらどうなるの」
五楼の雰囲気が怖くなる。夢喰い獏の一族以外にも生存をするために、人と交わった一族は居る。姿を隠しているだけだと五楼は言っていた。私はほかの一族に会っていないから分からない。
「叩くに決まっている」
陰陽師である五楼が叩くというのは、消滅させるのを意味している。獏の血を継ぐ者だけが、夢を食べ、消すことが出来る。
「結萌は自分を大切にする方法を教えよう」
「五楼も無理してるときあるわ」
数日間仕事で家を空けた時など、満身創痍で帰ってくる。血の匂いがすることもあれば、穢れを払うために数日会えないこともある。
五楼が一番大切にしてくれているのは、私ではなく、先祖返りしている私の能力。預かりものの私が死ねば五楼の首が飛ぶ。
「五楼、今回の悪夢の事本家は気が付いていないの」
悪夢が独り歩きし始めるのであれば、能力者は気が付く。五楼は私の不安を感じ取る。
「式を飛ばしておいた。俺が処理すると」
「ありがとう」
「結萌、俺を頼れ。何かあれば名を呼べ」
何かあると、五楼は必ず名を呼ぶことを強要する。朱千が傍にいるので、一番に伝達が行くはずなのに。
「分かっているわ」
陰陽師が大切にしている言霊の力を私は体感していないのを、その時の私は知らなかった。
☆★☆★☆
五楼に相談を終え、私は自室に戻り、本家から連れ出された後のことを思い出していた。
おじい様が死んでから本家に引き取られた時の記憶はあやふやで、日の当たらない部屋に閉じ込められていたのだけを覚えている。
手を差し伸べてくれた、太陽みたいな人にもう一度会いたくて。
五楼の力を借りればすぐに会えるだろうけど、自力で見つけたい。
「どうした」
ふわりと、姿を現す朱千。
「朱千は五楼の一族の中に、太陽みたいな人見たことある」
亡くなってしまっていたら二度と会えない。生きているかどうか知ることくらいは許されるよね。
「太陽か。結萌にとっての太陽みたいな人は?」
「私を暗闇から救い出してくれた人」
顔はよく覚えていない。声もあやふやで、霞がかかり、思い出せない。夢渡をしようとしたけれど、渡り切れなかった。助け出してくれた人は、記憶に残らない術をかけていたのかもしれない。
「会いたいの」
頬が熱くなるのを感じる。一度だけの関係。本家から連れ出されてそのまま一緒に過ごせるのかなと思ったら、五楼が後見人になってくれた。陰陽師の中でも力があるから選ばれたと本人が言っていた。
「お礼ちゃんと言えなかった」
力の強い獏を囲い混みたい輩に見つかってしまい、幽閉されていた数年間、悪食になりかけた。助けられなかったら私はきっと今こうして平和な生活を送れていない。
「もう一度でいいから会いたいの」
温かくずっとそばに居たいと思った人。あの人の夢がどんなものか気にならないと言ったらウソになる。温かい人の夢に触れてみたい。
「結萌、縁が結ばれていればまた会える」
「陰陽師みたいなことを言うわね」
「長く陰陽師に仕えているからね」
朱千が楽しそうに笑う声が深夜の暗闇に消えていった。
ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。




