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夢喰い獏と陰陽師の末裔  作者: 真綾


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7話

☆印を目印に場面が変わります

 扉を閉めて寝たので、悪夢の続きは視なかったが、頭から離れないでいた。


 夢の主は、抱えていた感情が大きくなり、手が付けられなくなってしまった。何度も立ち向かおうとして、忘れられなくて、忘れてしまうこと自体が“罪”のような感覚に襲われてしまいどうしようもできなくなってしまっている。


 授業も上の空で、お昼の時間も一人で食べたかったけど、由利が誘ってくる日があり、断ることができない。私から断れば悪い噂が立つことが目に見えている。


 いつもと同じように前の席を借りてきて、私の机で食べる。由利が仲良くしているメンバーを誰か連れてくることはない。


「結萌ちゃん、どうかした」


「考え事していて」


 悪夢が頭から離れな。どこかで匂いを嗅いだことがある。思い出せないのは、夢の匂いを常に嗅いでいるからなのかもしれない。匂いが零れ落ちるほどの悪夢であれば宿主は夢に囚われている。


「ご飯は美味しく食べないとだめだよ」


 私のお弁当箱に自分のおかずをひょいひょい入れてくる由利。


 学校に近づくにつれ、匂いが強くなる。恐らく宿主は学校の中にいる。


 身近な人の夢を食べることが禁止されたのは江戸時代くらいからだと聞いている。


身近な人に少しでも視る力があれば、食べられたことを覚えているし、食べた夢の記憶は忘れてられてしまう。


獏が食べた夢に感情が引きずられてしまうと、人としての側面が上手く機能しないことがある。


「お弁当に移してきたおかず、苦手なものじゃない」


 私は由利が普段から残しているおかず。


「バレてる」


 ぺろりと舌を出しながら、私の厚焼き玉子を一つお箸で捕まえた。


「結萌の厚焼き玉子美味しいんだよね」


「取っておいたのに」


「いつも家で食べれるからいいじゃない」


「そうだけど」


 本当はいつ食べられなくなるか分からない。命の危険が有る本業のことを話すことができない。五楼と一緒に居られる保証は高校卒業まで。約束の時間はすぐそこ。


「次、移動教室だし早く食べちゃおう」


 由利は玉子焼きを食べたのを悪びれることなく、自分の箸を進める。


 ツンと鼻に刺す臭いが強くなる。方角は、職員室の方向。


「ごめん由利ちゃん。先生に呼ばれていたの忘れてた」


 夢の匂いを思い出した。後藤先生だ。後藤先生に関する悪い噂。五楼に相談する前に確認しておきたい。夢が私に流れてきたから限界は来ているのかもしれない。


「先生に呼ばれるようなことしたの」


 嬉しそうに目を細める由利。きっと私はこの子の夢を食べないなと思いながら、にっこりと笑い、話を誤魔化した。



☆★☆★☆



 獏の血を継いでいたとしても、能力が完全に持って生まれるわけではない。能力を持っていない人、怪異を視る力を持っている人、色々な人がいる。


 人と接していくうちに、夢の多さに驚かされた。街ですれ違った人でもいい匂いがしたり、同じクラスの人が美味しい匂いがしたと思った次の日に、匂いが消えていることもある。

 先生の匂いは波がある。気になるときと、気にならない時と。


 私は授業の質問をしに来たフリをする。他愛のない話の中から、先生の気持ちがどこにあるのか、探る。

 前回の古典の内容を聞いていたけれど、先生の態度は普通だった。噂に聞いていた、代わりに夢を叶えたからと言って、仕事自体が嫌いなわけではなさそうな気がした。


 先生は質問を終えた私の顔を伺う様に、声を潜める。


「いつも一人でいるけど大丈夫」


 一年生の頃から先生からの質問第一位。最近は由利が一緒に行動をしてくれる事があるが、それでも先生の目からは一人で居るように見えるのかもしれない。


「先生。自ら望んでいるので大丈夫です」


 仲良くなりすぎると自分が辛くなることを知っている。夢の匂いが強くなる学校時代。この頃の夢は甘く大きなものもあれば、カラカラになっていてどう成長していかせるか悩むものも存在する。苦しく抱く者、楽しく達成していく者。今後の進路にも大きな影響を与えていく。夜見る夢が夢じゃない。食べてしまえばもしかしたら笑顔になれるかもしれないけど。


「自ら選んでるの?」


 後藤先生は困惑したように、周囲の先生の目を気にしているのか、首をかしげる。どこか頼りなさげで、授業中も生徒にからかわれているイメージがあった。生徒のことをよく見ている。朱千も他人ではあるが、信頼してもいいが、半面何かを抱えていると言っていた。生きてきた中で何もなく幸せだけにくるまれた人はいない。一秒先に何が起こるか分からない。夢を大切にし過ぎるだけでなく行動に起こさなければただの憧れに変わることもある。


 不安そうな顔の後藤先生。私は明るい生徒を装う。由利と話していても笑顔を出したことがないかもしれない。


「先生。私人ごみが苦手なんです」


「でもお昼は一緒にいる子いるわよね」


「由利ちゃんは人気者なんです」


「一人だと寂しいでしょう」


「寂しくないと言えば嘘になります」


 人としての感情と妖としての本能を天秤にかけると時折どちらを優先していいのか分からなくなる。五楼も“人としての一面を忘れないで欲しい”と言われたこともある。


「心がなければもっと寂しいから」


 我が儘かもしれない。


 獏の性質が無ければ素直に友達を作っていた。そもそも幼少期に山に籠って居なかった。


 五楼には人間と言われるけどなり損ない。中途半端な存在だと思ってしまう。


「一人はよくないわ。相談とかあったら言ってね」


「ありがとうございます」


 人の夢が悩みです。と言いたいけどそれは先生にも分からない。大人でも道に悩みもがいて苦しむのに。


 ふわりと優しい匂いが先生からする。楽しかった思い出と土の匂い。


「呼び止めちゃってごめんなさいね。どうかしました」


 真顔で先生の事を見つめてしまい、私は首を振る。後藤先生は安心したように大きく息を吸うと、先ほどまでの潜めた話し方から明るい雰囲気になる。先日気になった匂いよりも更に強くなった。


「予鈴なる前に教室戻らないと」


 本能が後藤先生から離れろと言う。引きずられる感情。不安、悲しみ、困惑。


 私のもの。其れとも先生のもの。


 溢れ出る感情を抑え込みながら私は慌てて職員室を出て、人気の無いトイレに逃げ込む。


 ふわりと慣れ親しんだ尻尾が私の首を包むように現れる。


「結萌どうしたの」


「朱千出てきて大丈夫」


「力ある者は近くにいないわ。どうして泣いているの」


 朱千が私の涙をぺろぺろ舐め始める。人気の無いトイレにうずくまる。


「分からない」


 流れてくる感情。寂しい、悲しい、助けて。

 手を差し伸べた先にある暖かな手を私は自らの手で振りほどいてしまったの。

 大切だった。守ってくれたその手を裏切った。


 ごめんなさい。今度は私が手を伸ばしていればあのとき飛び降りずに済んだのよね。


「朱千、どうしよう」


「どうしたの」


「迷い込んだ夢後藤先生のものかもしれない」


『近しい者の夢を食べると、両者に深い傷を作る可能性があります。学校に通う様になって何かあったら、いつでも頼りに来てね』


 私の存在が現れなければ結萌の名を継ぐはずだった年上の少女。継がなくてもよければ私は結萌の名をその子に譲ったのに、本家の人が試験をし、悪夢から救うものだったから、わざと負けられなくて。


 継ぎたくなかったと言えば、私は今幸せだったかな。


ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。

誤字脱字がございましたら大変申し訳ございません。


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