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4話

☆を目印で視点が変わります。

誤字脱字がございましたら大変申し訳ございません。

 クラスは大体六列くらいの机が並んでおり、クラス全員で大体四十名ほどだった。窓際の後ろのほうの席でクラス全体を見まわせるのを気に入っていた。


午後の授業が始まり、チラリと由利に視線を向けると不機嫌丸出しの表情で黒板を睨みつけていた。


「この時の主人公が言いたかったことは三行目にある“ありがとう”を活かすために今までのやり取りがありました」


 午後一の授業はお腹も満たされていて先生の声は子守唄代わり。一人二人は夢の中に流れていくのを私は感じ取るが、穏やかな昼下がり。悪夢を見る人はそうそういない。寧ろ穏やかな春の日和のような夢を見ることが多い。


「お昼の後の授業で眠いのは分かりますが、ちゃんと話をきいてください」


 教室の隅々に目を向けながら後藤先生は少し不機嫌に教壇の上に教科書を置く。


 誰かの夢を継いだとしても、後藤先生は夢に真摯に向き合っていると私は思う。


 ふわりと鼻に就く匂いがした。嗅いだことのある、匂い。


 私の中の本能が感じ取った、人としてではない、もう一人のわたしの感覚。


 嫌な臭い。美味しくないご飯を出された時の匂いだ。


 気に留めるにはあまりに小さなもの。誰もが抱えることのある小さな悪夢。


「この時間眠くなるのは分かります。でも授業を聞いてください」


 必死に訴えかける先生の姿はどこか頼りなくて、泣きだしそうに見えた。誰かの代わりに叶えた夢は本人の気持ちが乗って来ないから好きじゃない可能性がある。私は一つの夢の形だと思っているから完全に否定がしない。縋らなければ生きられないこともある。


 その先に自分としての夢を見つけられる人もいれば、ぶら下がったままの人もいる。用はその人次第だから何とも言えなくて。


 注意だけに時間を割いてはいられないため後藤先生は注意もほどほどにして授業を再開する。


居眠りに全力を注ぐ生徒、先生の話を聞く生徒。ノートに落書きをする生徒。同じ空間に居てもそれぞれの求める姿を一番にして行動をしている。私はぼんやりと後藤先生から感じ取った匂いを分析しながら話を聞いていた。


 この手の悪夢は強くなると精神をも食らうことがある。大抵は一度見た悪夢はそのまま忘れてしまうことがあるのだが、以前もこの学校で嗅いだことがある気がした。徐々に強くなる匂い。


「次、盛田さん呼んでください」


 後藤先生が指名し、生徒はたどたどしく教科書の文面を読んでいく。一瞬先生と目があったような気がした。




 ☆★☆★☆


 夢を見ていたの。

 忘れたくても忘れられない、大切な人を傷つけたときの夢。



 どうしてか、クラスの人たちに無視されていた小学二年生の春。私は一人でいることが寂しくない訳じゃなかった。誰も話を聞いてくれなくて、話しかけてもくれない。「バイキン」と呼ばれ私は何をしたのか分からなかった。


 転校してきた〇〇ちゃんは知らなくて、たまたま席が近くて、教科書が来ていないから一緒に見ていただけ。


 彼女も私の様に、より酷くいじめられてしまった。


 学年が上がり五年生になったときはそのいじめにも周囲が飽きてきたのか徐々になくなってきていた。


 中学校は学区が違い〇〇ちゃんとは離れてしまったけど定期的に会ってお互いの近況を話していた。中学校は気の合う友達が出来て私は楽しく生活できていたけど会うたびに〇〇ちゃんの表情は暗く落ち込んでいるような気がしていた。


「どうしたの」


 学校が違い中々会うことができないけど、私たちは初めて会った公園でよくお話をした。今の時代よりも携帯電話を子供に持たせる親は少なかったので、事前に約束をすることもできずにいた。


「同じ小学校から上がった人があんまり居なくて」


「〇〇ちゃんは可愛いから大丈夫だよ」


 私と違い〇〇ちゃんは見た目がとても可愛かった。一緒にいじめられていた時も、本当は○○ちゃんと仲良くしたくてちょっかいを出していた男子もいたと後で知った。仲良くなりたかったらちゃんとお話しすればいいのに。


「可愛いってやっぱり得なのかな」


「不細工よりは徳じゃないかな」


 私の言葉に○○ちゃんは自分の髪を引っ張ってみたり、頬を持ち上げてみたりした。いじめられるはずのなかった、女の子は私のせいで標的にされた。学校が離れていれば、以前のようなことは起きないと思うから。


「時間があるとき、また一緒にお話ししよう」


 私の心安らぐ時間。両親にも心配をかけたくなくていじめられていることを話していない。話せるはずがない。


 ○○ちゃんは嬉しそうに頷いた。


「約束、だよ」



☆★☆★☆



 じんわりと汗がにじむ。私は布団の上に起き上がり時計をみる。深夜三時。いつの間にか眠っていたらしい。


「結萌、どうした、うなされていたぞ」


 暗闇の中から一匹の狐が姿を現す。大型犬位のサイズで五楼の式神。私の護衛につけてくれている名を朱千。


「大丈夫」


 無意識に姿を現した朱千を抱き寄せる。気が付けば夢を見ていた。私でない誰かの夢。


 幸せな時間では想像ができないことがその後起きて。苦しくて誰かに打ち明けたくて。


 弱さをさらけ出すことができなくて、結局尻込みして声に出せない。


 そんな夢。


「どうした、気分が悪いなら五楼を呼んでくるぞ」


 お目付け役兼護衛の守狐は基本的に私の望まないことはしない。緊急を要すると判断したときのみ、私に許可を取らないで五楼に報告する。


「言わなくても五楼はきっと分かってる」


 私の保護者を名乗っている術者。私が潜り込んでしまう夢を把握できる能力が無ければ保護者なんて名乗れない。


「強い、悪夢だった」


 私は朱千を離し、頭を撫でる。


「影響はされていないようだが、顔が真っ青だ」


 守狐は私にはとてもやさしい。見張られているとは知っていてもそばに居てくれるだけで安心できる。


 私は先ほど視た夢を思い出す。友達の名前すら思い出せないのに、想いが段々と強くなっていく。


「大きく育っている悪夢だった。抱えているものが多分、溢れてきている」


 その内、夢の主は夢に押しつぶされてしまう可能性がある。


「守狐、五楼には詳細が分かるまで手出し無用と伝えて。明日学校だからもう一度寝るわ」


「ならば添い寝してやろうか」


「ううん。扉を閉じて寝るから次は見ないわ」


 危険な夢に出会っていなかったせいで油断していた。無作為に食べていいのであれば扉を閉めずに寝ていていい。私は無作法に食べないと決めているため、基本的に夢の扉を閉じて寝ている。五楼に怒られるとしたらきっと、夢の扉を開いたまま寝たことね・・・。


ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。

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