3話
誤字脱字がございましたら大変申し訳ございません。
一話ごとの文字数に差があり大変読みにくいかもしれません。
正直学校は好きになれない。色々な夢が飛び交っていて最初は吐き気が止まらなかった。長い間、人里離れた場所に隠れていた。『本家』にも私が先祖返りであることが知られないように。
獏の一族の出産のときは陰陽師が同席する決まりになっているのを、五楼に引き取られたときに教えてもらった。母様が生れた時に立ち会ったのが、五楼の父親だったらしい。
その縁でおじい様が隠れて出産をするときに五楼の父親に話をし、昔から五楼は私の事を知っていたようだった。保護者になると決めのも幽閉されているのを知ったから。
人の力に妖の血が流れているため、無事に出産できても何かしらの事故が起こることがある。
力の制御がうまくいかなかった頃に無意識に夢を渡り歩いている時期があった。美味しい夢と、不味い夢はその時に十分に味わった。おじい様は自分がなくなってしまった後に、私が独りになるのを恐れて、秘密裏に陰陽師の家に連絡をとっていたらしい。
おじい様の思惑とは別で、夢渡をしていた時に偶然私の力の片鱗に気が付いた本家の人間が血眼になって私の事を探していたらしい。亡くなった後に家を囲んでいた結界が解かれ、本家に引き取られることとなった。五楼に出会わなければ私は青空の下を歩くことが叶わず、制服に袖を通し通学する今はなかった。
通いたかったわけじゃないけど、人間らしいこと全部奪われてしまったら獏としての本質に呑まれてしまったかもしれない。
暗く、冷たい部屋に閉じ込められ、獏の仕事をしない限りは外に出られない部屋。自由に空を見ることさえも否定された数年間は忘れられない。
高校二年生になると、進路のための準備で皆顔つきが少し変わってくる。
楽しい高校生活に心躍らせていたはずなのに、卒業までにまだ時間があるのにも関わらず、進路がちらつく。楽しい毎日が一変、周囲と差がつけられる事に恐怖すら覚える。
「どうしたの」
「由利」
お昼休みのチャイムが鳴る。仲の良い友達と食事をするために、座席を移動し始める人々。私の席に人気者の由利が近づいてきた。
最初人と関わることに怯えていた私に由利は優しく声をかけてきてくれた。中学校に行く年齢の時は五楼に助けられた後だったので、他人と一緒に学校に行くことなんて考えられなかった。ブレスレットで力を抑えていても本能が時折美味しい匂いに引き寄せられてしまうことがある。
人としての感情と、本能との間で揺れ動く気持ち。忍耐力が相当鍛えられた。
「お昼休みなのに真っ先にお弁当開かないんだもの。びっくりしちゃった」
空いていた前の席から椅子を借りてきて。由利が私の机にお弁当を広げる。親しい人を作るつもりが無かったのだが、由利は私に近づいてくる。私以外にも仲の良い人が沢山いる人気者の存在なのに私に興味を持つ必要があるのかしら。
思春期の不安定な時は夢がざわつく。匂いにやられ、自我を失ってしまったら取返しが付かないから、友達を作ろうとは思っていなかった。
由利は何かと私に構ってくる。キラキラとしていて新鮮な夢の匂いと、時々ツンと鼻を刺す異臭が混じっている。私と仲良くしたくないのかもしれない。なら、どうして私に付きまとうのか、知るすべを私は持っていない。五楼の式神が警戒をしていないので、害がないと判断をしている。
「私が食いしん坊みたいな言い方辞めてください」
正面に座った由利に私は愛想笑いをする。突き離せば面倒なことになる気がするので、相手の求める友達を演じる。
「美味しそうなお弁当持っているのが悪い」
五楼の手作りお弁当は人から好評である。ふと私のお弁当の中身が見えると、皆ほめてくれる。普段人とコミュニケーションを取らない私のお弁当箱の中身が可愛い。
五楼が丹精込めて作ってくれているお弁当は、体が資本だということで栄養バランスを考えてくれている。時間があるときは、キャラ弁になっていることもある。陰陽師として暗躍したり、普段顔色が悪い五楼が作っているのが不思議だ。
料理が上手なら小説家じゃなくて料理人を目指せば良かったじゃないと話したときに、本業があるときに、融通の利く自営業を探していた結果小説家になったと話していた。
「由利ちゃんのも美味しそうだけどな」
こじんまりとした一段のお弁当箱。女の子であれば、十分なサイズ。私のお弁当箱はその日のメニューによって変わる。本日は二段のお弁当箱で、のり弁。卵と唐揚げ、プチトマトと、仕事が忙しいのは本当のようだ。
由利は私と自分のお弁当を見比べて小さなため息をつく。
「冷食詰めてるだけだよ。午後の授業、後藤先生だよ」
女性の先生で生徒から何故か嫌われている。小柄であまり化粧をしていないのか、他の先生よりも幼く見える。教え方は丁寧で私は好きだ。
「後藤先生ハッキリしないことあるから」
生徒の質問に対してはっきり答えなかったり、授業を聞かない生徒にも優しく指導している。怒らない先生と呼ばれている。
「そうかな」
私は、時折寂しそうな顔をしているのは気になっていた。悪夢の微かな匂いがすることもあるが、寝ている間に見る夢の中には悪夢も時折混じっている。全ての悪夢を無くすことがいいとは限らないので、気にしていなかった。
私の反応にムッとする由利。私と本当は仲良くしたくないと話していると、他の子が教えてくれたのは本当なのかもしれない。嫌いなら、関わって来なければいい。
私が頼んで仲良くしているわけじゃない。
「後藤先生が赴任してきたときに良くない噂も一緒に流れてきたの忘れたの」
私たちが二年生になった時に後藤先生はやってきた。国語の授業を教えてくれていて、先生の言葉はとても優しい言霊が混じっている。
「そうだったっけ?」
とぼけながら唐揚げを口に含む。誰が言い出したか思い出せない。『後藤先生の同級生は自殺をしている』というもの。自殺の原因が、先生自身であること。
「その子が学校の先生になるのが夢だったから後藤は先生になったんでしょ」
「由利ちゃんはそれが嫌なの」
真相を先生に聞いたわけではない。単なる噂の可能性もある。
「誰かのためってきれいごと嫌いなの」
タコの形をしたウィンナーを口にほおばりながら由利は自分の考えを口にする。
「どうして由利ちゃんが怒っているの」
「怒ってない」
「それを怒っているって言うんじゃないかな」
「違う。後藤の考えが納得いかないの」
それきり、由利は黙々とお弁当を食べて終わるとすぐに席を離れて行った。おじい様は私の事を心配して人里を離れて生活するのを選んでくれた。
自分が死んだ後は仕方なく、『本家』に頼る羽目になってしまった。両親が健在だったら私はあの山奥でヒッソリと暮らしていたのかもしれないと思いながら、お弁当の残りをほおばった。
ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。
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